皮膚感覚受容器と鍼灸刺激  東洋医学研究所®グループ二葉はり治療院 院長  甲田 久士

平成22年11月1日号

<はじめに>
 皮膚は身体を覆い外部と内部を分ける境となっている器官です。ヒトは熱い、冷たい、痛い等、いろいろなことを体で感じたり目や耳を使って物を見たり音を聞いたりできます。感覚というのはいろいろな外からの刺激を特定の器官が感じます。これを感覚受容器といいます。そしてその情報を認識します。鍼灸刺激は皮膚組織を刺激することにより治療効果を得ます。
 今回は鍼灸刺激と関係がある「皮膚感覚受容器(体性感覚)と鍼刺激」についてお話します。

<感覚の分類>
 感覚は大きく分けて3つに分類されます。
1)体性感覚: 表面感覚(皮膚感覚)と深部感覚を合わせて体性感覚といいます。
表面感覚には触覚(触れた感じ)、圧覚(押えられた感じ)、温覚(温かさ)、冷覚(冷たさ)、痛覚(痛さ)、痒覚(かゆみ)があります。深部感覚には運動感覚、深部痛が含まれます。
2)内臓感覚: 臓器感覚(吐き気など)、内臓痛覚が含まれます。
3)特殊感覚: 視覚(目で見る)、聴覚(耳で聞く)、味覚、臭覚、前庭感覚(平衡感覚)が含まれます。

<体性感覚>(皮膚感覚受容器)
 皮膚の感覚受容器には表1に示すように、受け取る感覚の種類によって受容器の種類とその感覚をつたえる神経線維が異なります。それぞれ皮膚に対してある種の感覚(刺激:感覚受容器を興奮させるもの)が起こった時に、その受容体がその情報(閾値:感じ取れる最低の刺激)を感知したものが、電気信号に変換され、それぞれの神経線維により脊髄後角へと投射されます。

<皮膚感覚受容器と鍼灸刺激との関係>
 鍼灸治療は、経穴と称する部位に刺激を行います。この刺激は皮膚を損傷するに至る刺激となり、感覚の性質から痛覚に含まれます。表1に示すように痛覚の受容器は高閾値機械受容器とポリモーダル受容器に分類され、この2つの受容器は総称して侵害受容器といわれます。
 高閾値機械受容器は触れたような弱い刺激には反応しないで針刺しのような組織を傷害する強い刺激だけに反応し、ポリモーダル受容器は機械的刺激、化学的および熱刺激のいずれにも反応し、その反応は炎症物質(炎症をおこした部位でつくられる物質)によって反応が強まる侵害受容器です。
 ポリモーダル受容器のこのような受容特性から、鍼刺激は機械的刺激、灸は化学的および熱刺激と考えると、鍼灸作用のメカニズムに、このポリモーダル受容器が関与している可能性が示唆されています。
 平成2年から平成18年まで、私はポリモーダル受容器の提唱者である名古屋大学環境医学研究所神経性調節分野熊澤孝朗教授の研究室へ、黒野保三先生のご厚意により研究生として行かさせていただきました。そして、鍼刺激と考えるポリモーダル受容器の機械的刺激に対する反応についての実験に携わることができました。
 そのポリモーダル受容器の機械的刺激に対する反応の予備実験で、連続的に機械的刺激を繰り返した神経活動のデータから、黒野保三先生は60gの機械的刺激は神経活動が減弱し、20gの機械的刺激が安定した神経活動がみられることを発見され、生体への鍼刺激は20g相当の弱刺激がよいことを見出されました。

<おわりに>
 皮膚には種々の刺激に反応する感覚受容器があり、その中の痛覚をつかさどるポリモーダル受容器が鍼灸作用のメカニズムに関与していることをお話させていただきました。
 黒野保三先生は、東洋医学研究所®の治療原則として神経生理学の実験から鍼刺激の刺激量を定められました。このように実証医学的に証明された治療法を用いている東洋医学研究所®に来院されることをお勧めします。

表1 皮膚の感覚受容器
感覚 受容体   神経線維
触覚 マイスナー小体  
圧覚 パチニー小体  
温覚 ルフィニー小体   Aδ、(C)
冷覚 クラウゼ終球   Aδ、(C)
痛覚 自由神経終末 高閾値機械受容器
  自由神経終末 ポリモーダル受容器 C
痒覚 自由神経終末 痒み受容器 C