心身一如のからくり  東洋医学研究所®グループ栄鍼灸院 院長 石神 龍代

平成23年6月1日号

はじめに
 去る3月11日午後2時46分に発生した東日本大震災と大津波、それに伴って起こってしまった原発事故により被災された方々に心からお見舞い申し上げます。
 よく昔から「病は気から」という言葉を聞きます。私たちの心と身体は一体であり、心のあり方がいかに大切かということは、今回の東日本大震災において被災された方々の精神性の高い言動が如実に表しています。
 近年、予防医学的観点から「心身一如のからくり」についてのさまざまな精神神経免疫学的研究が行われていますので紹介します。

ポジティブ感情(前向きな思考)と身体機能との関連
 「陽気な心は健康を良くし、陰気な心は骨を枯らす」という言葉があるように、はるか昔から「うれしい」「幸せ」などといったポジティブな感情をよく喚起していると健康によい影響を及ぼすと信じられてきました。興味深いことに、こうしたポジティブ感情を普段からよく喚起している人たちは風邪をひきにくく健康であるということが最近報告されており、ポジティブ感情は私たちの身体、とくに細菌やウイルスの感染を防御するシステムである免疫系などに非常に有益な効果をもたらすことが示唆されています。
 さらに、「幸福感」が高い人々は急性ストレスが負荷されても交感神経系の過剰な活性化が抑えられ、身体に負荷があまりかからないことや、疾病率が低いことなども報告されています。

ストレスと身体機能との関連
 疲労・睡眠不足などのストレスは私たちの免疫機能を低下させ、身体的な健康状態に悪影響を及ぼすだけでなく、免疫系機能異常により免疫系のシグナルである炎症性サイトカインの血中濃度が上昇し、それが脳に作用して抑うつ状態が引き起こされ、精神的な健康状態にまでも悪影響を及ぼすことが明らかになっています。
 種々の心労や悲哀、抑うつ状態では、感染症、アレルギー疾患、自己免疫疾患、さらにがんの発生率が増加することが報告されています。
 配偶者の死後に残された片方の配偶者のリンパ球の反応性が2~8週間後に低下するとか、乳癌に罹患した妻をもつ夫を調べたところ、死別後のリンパ球幼若化能が著しく低下していたとか、試験ストレスによって末梢血リンパ球のPHA反応、インターフェロン産生能及びナチュラルキラー(NK)細胞活性が低下するなどの報告がなされています。
 ストレスと感染との関係については、心理社会的因子が感冒発症に及ぼす影響について、健常者を用いた臨床研究があります。あらかじめ被験者に対し、面接、質問紙法により、個々の心理特性、ライフイベントの有無について評価し、その後、感冒の原因ウイルスであるライノウイルスを点鼻し、発症の頻度、ウイルス分離、抗体の上昇などの疫学的研究を行った結果、発症と最も関連していたのは自覚的ストレスの強さであったということです。
 また、一ヶ月未満の比較的短期間のストレス状況に曝されていた例では、感冒の罹患率は低く、逆に持続的なストレス状況に曝されていたケースでは、罹患率が優位に高かったということです。
 一般にストレスは免疫機能に対して抑制的に作用するとされていますが、短期間の急性ストレスは、慢性ストレスとは異なり、生体の免疫機能を賦活し、感染防御能を高める可能性が示唆されています。
 私たちの身体を構成する60兆個もの細胞には解糖系(無酸素状態で活発になる)とミトコンドリア系(有酸素状態で活発になる)の2つのエネルギー経路が備わっています。
 現代人は働き過ぎや心の悩みなど種々のストレスによって解糖系エネルギーに依存した生き方に偏っていることが、低酸素・低体温の状態をもたらし、病気を生み出しているといわれています。
 がんも、低酸素・低体温の状態が日常化したとき、身体の細胞ががん化して生じるといわれています。

ストレスの解消法
 内的・外的ストレスに対して内部環境の恒常性を維持するうえで、神経、内分泌、免疫のホメオスタシス系は情報伝達の仕組みを共有して総合的に生体調節系として働いています。免疫機能を上昇させるものとして、鍼治療、絶食療法、精神的サポート、笑うことなどが報告されています。
 身体を温めることに加え、深呼吸や適度な有酸素運動で上手に酸素補給を心がけることによって、ミトコンドリア系エネルギー代謝が高められ、健康に生きるための英気を養うことができるといわれてます。
 今回の大震災で懸念されているのが、心的外傷後ストレス障害(PTSD:危うく死ぬまたは重症を負うような出来事の後に起こる、心に加えられた衝撃的な傷が元となる様々なストレス障害を引き起こす疾患)であります。
  治療としては、精神科や心療内科の医師による面談や薬の服用、認知行動療法に加え、鍼治療の有用性も報告されています。

おわりに
 今回の東日本大震災は、日本および世界に筆舌につくせない様々な大きな影響を与えています。
  今後の日本のことを思うと不安で暗い気持ちになりますが、人間関係の重要性の再認識、生に対する感謝の念、生活習慣の見直しなど、本来日本人に培われてきた精神性の高い文化生活が回復し、強い絆と温かい支援によって、力強く復興することを信じます。

参考文献
1)松永昌宏、金子宏、坪井宏仁、川西陽子:主観的幸福感に着目した心身相関の新展開.心身医51(2).135-140.2011.
2) 久保千春:ストレス応答と神経免疫内分泌学.医学のあゆみ.212(13):1111-14.2005.
3)安保徹:人が病気になるたった2つの原因.講談社.2010.
4)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%83%E7%9A%84%E5%A4%96%E5%82%B7%E5%BE%8C%
  E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%B9%E9%9A%9C%E5%AE%B3
5)http://www.toyo.ac.jp/soc/project/pdf/47-2Ando.pdf