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コラム

2011年11月 1日 火曜日

人工透析患者さんのかゆみ  東洋医学研究所®外部主任 中村 覚

平成23年11月1日号


平成23年3月11日に発生した東日本大震災と大津波、それに伴う原発事故により、被災されました皆さまに心からお見舞い申し上げます。
東洋医学研究所®及び東洋医学研究所®グループでは、当地に避難された皆さまが少しでも元気になって頂くことを願って、鍼治療にてご支援をさせて頂いております。
皆さまの安全と一日も早い被災地の復興を心からお祈り申し上げます。

はじめに

これまでのコラムではストレスとかゆみについてお話をさせて頂きました。 
かゆみは非常に不快な感覚であり、「痛みはがまんできるけれど、かゆみはがまんできない」と言われるほどです。かゆみは数多くの皮膚疾患に伴う主要な症状でありますが、皮膚疾患のみではなく、人工透析患者さんなどの全身疾患の患者さんにかゆみ症状が出ることも多くあります。そして、抗ヒスタミン剤などのかゆみを抑える薬に抵抗性を示す場合が多く、患者さんにとって大きな苦痛となっています。現在、約30万人という非常に多くの方が人工透析を受けております。
日々の診療をさせて頂く中で、人工透析患者さんの全身のかゆみが鍼治療をすることによって改善することがみられます。
今回は人工透析患者さんのかゆみについてお話させて頂きます。

透析患者さんのかゆみ

かゆみは透析患者さんの約60%にみられ、難治性で患者さんを悩ませる重要な合併症であります。2001年に新潟大学の下条文武教授のグループは約2500人という多数の透析患者さんにアンケートを行い、40%の患者が中等度から強度のかゆみを訴えていること、13%の患者さんにかゆみゆえの睡眠障害があることを報告しました。
しかし、透析患者さんのかゆみの原因がわからないために、効果のない抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬が漫然と投与されていました。

透析患者さんのかゆみの成因
透析患者さんのかゆみの原因は古くからさまざまな説が提唱されてきましたが、いろいろな説が発表されては否定されることの繰り返しでありました。このことは、かゆみの発生機序の多様性、治療の難しさを反映していると思われます。
透析を受け始めてからの年数や腎不全の基礎疾患(糖尿病など)と、かゆみの強さとのあいだに相関はなく、透析量不足でかゆみが増強するのは当然でありますが、十分な透析を行っていてもかゆみが改善しない患者も多いのです。副甲状腺ホルモンが高いとかゆみが増強することも確かでありますが、副甲状腺摘手術後もかゆみの続く患者さんが多くみえます。
免疫系もかゆみの発症機序に深く関与していることが報告されています。一般にTh1リンパ球(ヘルパーT細胞1:リンパ球の一種で主に細菌などを貪食する細胞性免疫を担当している)はかゆみを増強し、Th2リンパ球(ヘルパーT細胞2:リンパ球の一種で主にアレルギーなどの液性免疫を担当している)はかゆみを抑制することが知られています。Th1リンパ球はかゆみをもたらすIL-2を分泌し、TNF-αを増加させるからです。また、免疫抑制薬タクロリムスを外用することが実際にかゆみ抑制効果を示しており、免疫異常によるかゆみ説を支持しています。
 上述のように、かゆみの原因は複雑な機構によって出現していると考えられています。

図1 人工透析のかゆみの原因

かゆみの原因としてオピオイドが注目されている

オピオイドとは、脳内などに作用する内因性・外因性の鎮痛作用などを及ぼすような物質の総称で、皮膚、リンパ球表面、中枢神経系などにはオピオイドがくっつくμ(ミュー)、δ(デルタ)、κ(カッパ)などの受容体があります。
末期がんなどの痛みをとるために使用されるモルヒネはμ受容体にくっつき鎮痛効果をもたらします。そして、モルヒネはかゆみを誘発する作用もあることから、かゆみの発症機序として内因性オピオイドの役割が注目されてきました。

透析患者さんの血漿中のμオピオイドおよびκオピオイド濃度

透析患者さんのかゆみの機序として、内因性オピオイド系の異常を想定し、健常対象者28人および透析患者さん37人(かゆみがない19人、中等度のかゆみ8人、強いかゆみ10人)の血漿中の内因性オピオイド濃度を測定した研究があります。
内因性μ受容体にくっつくものとしてβ-エンドルフィンを、κ受容体にくっつくものとしてダイノルフィンを測定した結果、かゆみの強い患者さんほどβ-エンドルフィン濃度が高いことが確認されました。
また、同じ対象者の末梢血リンパ球表面のμ及びκ受容体の発現を測定した研究結果から、かゆみのある透析患者さんでは、健常者と比較して、「κ受容体と比べてμ受容体が相対的に優位である」ことが示唆されました。
つまり、透析患者さんのかゆみはリンパ球や脳などに作用する物質によって出現していることが考えられます。通常、かゆみに対しては抗ヒスタミン薬が用いられますが、主にヒスタミンを出す肥満細胞に作用することから、透析患者さんのかゆみに対して効果がみられない可能性は高いと思われます。

おわりに

現在、かゆみは末梢性と中枢性の二つのメカニズムが考えられており、その治療法の研究が進められていますが、今のところはっきりとした治療法は見つかっていません。
抗ヒスタミン薬に抵抗性を示しやすい人工透析患者さん、アトピー性皮膚炎患者さんや、老人性の皮膚掻痒症のかゆみが、鍼治療によって改善されることをよく目にします。
そのメカニズムは明らかではありませんが、東洋医学研究所黒野保三所長が提唱されている鍼刺激による脳を介した統合的制御機構へのアプローチや、治療者の人間性によって症状の改善が見込めるのだと思います。
東洋医学研究所®及び東洋医学研究所®グループでは、全身の調整を目的とした生体制御療法を行っております。
薬の効果がないかゆみをあきらめずに、是非、副作用のない鍼治療をされることをお勧めします。

参考文献
宮地良樹/生駒晃彦編:皮膚科診療最前線シリーズ「かゆみ最前線」.172-177.2006.
日本透析医学会ホームページ:http://docs.jsdt.or.jp/overview/

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