痛みは我慢していると大変 東洋医学研究所®グループ二葉はり治療院 院長  甲田 久士

平成24年4月1日号

はじめに
 現在医療機関に訪れる患者さんの大半は痛みを症状として訴えて来院されると思われます。痛みを我慢することは美徳でもなんでもありません。痛みは体からの警告信号です。早期に原因を突き止め、治療を受けて早くその痛みを体から取り除くことが大切です。我慢をして治療のタイミングを逃がすと慢性的な痛みに変わり、気分的にも日常生活にも大きな障害をもたらします。
 今回は「痛みを我慢していると大変」というテーマでお話させていただきます。

痛みとは
 「痛み」とはどのような感覚なのでしょうか。答えはさまざまです。針を刺したときの痛みは典型的な痛み感覚ですが、腰や頭が重たくなるように感じるものや、また歯科医院で歯を削っている音を聞いているだけでも痛いと感じる人もいて、つかみどころのないのが痛みです。
 国際疼痛学会では1981年に次のように痛みの定義を定めました。
 「実際に体に障害が加わるか、見えない障害が加わった際に生じる不快な感覚や気分、そしてそのような障害があったかのように思って生じる不快な感覚や気分」
 この定義から実際にケガや病気などをして痛む、ケガや病気は快方に向かってもそのあとに風が吹いても痛いような気がする、想像しただけでも痛むなど、痛みはこのように三つの段階を含んでいると考えられます。
 通常では、これら痛みの三つの段階のうちで実体験するのは、第一段階止まりです。しかし、人によっては第三段階まで強く痛みを感じ、しかも、その痛みが長引いて家から外に出られない、会社も休むといったように生活にも影響が出てきます。

痛みの四つの側面
 肩や腰・膝の痛みが長引くと、図1に示すように四つの側面で支障が生じます。
 痛みが長期間に及ぶと、痛みのために体を動かせない、動かそうとしない、その結果、体が弱っていくといった、体への影響が現われます。
 また、いつ治るのか、悪性の病気が潜んでいて死んでしまうのではないかといった不安がつのり、その不安によってイライラしたり、気持ちが落ち込んで目もうつろになったりと心への影響が現れます。

図1 痛みが長引くことによって現われる四つの側面

 痛みが心身両面へ影響を及ぼすことにより、なんとなく元気がなくなり、外出する機会も減って、社会との交わりが少なくなり、次第に食欲不振、睡眠不足など日常の行動面にも影響が出てきます。その結果、学校へ行かない、仕事を休むといったように日々の生活が消極的になり、友達が少なくなったり収入が減ったりします。
 このように「痛み」という症状は、食欲不振、咳が出る、目まいがするといった一般的にみられる病気の症状に比べ、波及効果が大きい点で際立っています。また、体・心・行動・社会の状況が、逆に痛みを増強させたり長引かせたりすることがあります。
 痛みに対する医療の挑戦は何千年もの長きにわたり続いています。それは痛みが病気の初発症状であるばかりでなく、患者さんの社会活動制限など波及作用をも考えなければならないほど重要な症状だからです。だから初期の段階で我慢せずに的確な処置、治療を受けることが大事なのです。

痛みは体の異常を知らせる警告信号
 では、痛みがなければいいのでしょうか。そんなことはありません。それどころか、痛みを感じなければ、大変なことになってしまいます。痛みを感じない状態になると、体に傷がついても傷害を自覚したり、傷害部位を守ることが出来ません。その結果、治療の遅れや症状の悪化を招くことになります。
 痛みは体の異常を知らせてくれる警告信号であり、痛みを感じることによって、痛みの部位(どこが痛むのか?)、痛みの程度(どのくらい痛むのか?)、痛みの種類(どのような痛みか?)が特定でき、それによって本人は、自覚が高まり、日常生活において対応ができます。また、医療サイドも正しい診断ができ、適切な治療が可能になります(図2)。


図2 痛みを感知することの重要性

 「痛み」を感じることは、体を脅かす警告信号としては必要なことです。しかし、痛みはいつまでも続くことがあり、不快感や抑うつ感など感情の変化をともなうこともあるのが難点です。痛みは急性痛と慢性痛に分けることができ、慢性痛に移行すると大変なことになります。

痛みがもたらす精神的・社会的波及作用
 痛みに左右される気持ちや行動に示すように、ケガや神経の圧迫により痛みが生じた場合は、不安になったり落ち込んだりします。痛みのために姿勢が悪くなって恥ずかしい、気力が衰えて仕事に就けない、動きたくないので家に閉じこもってしまうといった理由で社会での活動量が減ります。逆に、痛みそのものも気持ちの在り様によって変わります。

おわりに
 痛みは我慢せずに急性期に適切な治療を受けなければいけません。痛みは中枢神経系で感じて痛覚抑制系も関与しています。鍼治療後の鎮痛効果はこの痛覚抑制系に働くと考えられ、さらに自律神経系、免疫系、内分泌系にフィードバックされ生体の歪みを元に戻そうとします。
  東洋医学研究所®所長黒野保三先生は各種疼痛疾患について鍼治療と超音波の併用治療により約92%の有効率を報告されています(黒野保三先生の研究業績参照)。黒野保三先生の治療方法は神経生理学・解剖学の基礎実験から実証医学的に証明された裏付けのある治療方法です。
 鎮痛薬には副作用として胃腸障害を引き起こすことは知られております。鍼治療は副作用はありません。痛みを感じたら我慢せずに第一選択として鍼治療をお勧めします。

引用文献 
林 泰文:肩・腰・膝 痛みのクリニック、2003