生体制御療法を使用した鍼治療の研究1・・・健康チェック表とは

1)不定愁訴症候群に対する鍼灸治療の検討

近年、社会構成が複雑多岐になり、現代はストレス社会ともいわれるようになってきました。そして、いわゆる不定愁訴を訴える人が多くなり、これらの人々が鍼灸院を訪れるケースが増加しつつあります。
しかし、いわゆる不定愁訴を訴える患者に対する鍼灸治療の有効性を定量的に見出すことは非常に困難であるのが現状であります。
そこで、黒野は

①鍼灸院を訪れる不定愁訴症候群患者が増加していること
②鍼灸師が独自に研究ができること
③鍼灸師は誰でも研究活動に参加できること
④治療に関しては近代医学の盲点であり、鍼灸治療が最も得意とする分野であること
⑤病理学的徴候の有無にかかわらず不定愁訴を有する患者が多数いること

を踏まえて、不定愁訴症候群に対する鍼灸治療の有効性を実証医学的に見出す目的で、昭和61年10月26日、(社)全日本鍼灸学会研究委員会に不定愁訴班を新設し、研究活動を開始しました。

2)健康チェック表について
この健康チェック表を作成するにあたり、最初に、黒野等は、現在広く使用されている健康調査表の検討から研究を始めました。

CMI(コーネル大学健康調査表)に着目し、不定愁訴症候群患者に対し、生体制御療法としての鍼灸治療の有効性を客観的に見出すことを試みましたが、①患者の中にCMI記載中、50項目前後で記載を中止するものや、後半の記載がかなり曖昧であること(初回と次回の記載にかけ離れた記載がなされている)、②項目数が多く患者の負担が大きく、記載された結果が不安定である、③類似の項目が多くある等の問題に気づき、それらを改善し鍼灸施術の現場で重症度判定と効果判定ができ、鍼灸施術の効果を定量的に見出せる健康チェック表(記載項目50項目を限度とする)を作成することにしました。

表1にあります調査表を総合的に検討し、健康チェック表を作成しました。この健康チェック表の項目のうち1~12までが自律神経失調性項目、13~24までが神経症性項目、25~36までがうつ状態性項目、37~50までがその他の不定愁訴項目に分類できるように作成しました。

作成した健康チェック表は各質問に対して、常に症状がある場合には2点、時々症状がある場合には1点を記入していただきます。したがって、満点が100点となります。この健康チェック表に記載された点数の合計点を不定愁訴指数ということにしました。
この健康チェック表は、再現性・妥当性・各項目別の相関関係・項目数の必要性について医学統計学を行って検討した結果、いずれにおいても妥当であることが明らかとなったものであります。

<表1>

1.無徴候.有訴群患者の自覚症状 ・・・ 43項目
2.CMIの精神症状の質問項目 ・・・ 56項目
3.CMI阿部変法・自律神経失調性愁訴とした質問項目 ・・・ 43項目
4.CMI阿部変法・精神性愁訴とした質問項目 ・・・ 51項目
5.CMI馬島変法・身体症状に関する質問項目 ・・・ 49項目
6.CMI馬島変法・精神症状に関する質問項目 ・・・ 51項目
7.関西労西災式うつ状態調査表 ・・・ 30項目
8. SRQ-D(抑うつ尺度) ・・・ 18項目
9. SDS(自己評価式抑うつ尺度) ・・・ 20項目
  合 計 361項目

3)重症度判定基準

健康人と思われる人の不定愁訴を調べる目的で、全国の鍼灸学校学生700名に三ヶ月間健康チェック表の記載を依頼しました。三ヶ月間、健康チェック表の記載を完了した459名を対象に健康チェック表の点数を調べました結果、健康人においても5.4点の愁訴を有することがわかりました。したがって、重症度判定の下限点数は6点以上と定める必要が生じました。

症例集積で51点以上の症例は9例みられましたが、そのうち7例が関西労災式うつ状態調査表の判定で、うつ病に相当する患者でありました関係から、50点を上限とし、51点以上は不定愁訴症候群から除外することとしました。

<表2>

軽 症 (6~15点以下)
中等症 (16~30点)
重 症 (31~50点)

4)効果判定基準

効果判定は1クールを7回の鍼灸治療と定め、3クール終了後に判定しました。
効果判定基準は、著効・有効・比較的有効・やや有効・無効の五種類に分類しました。

症例集積で51点以上の症例は9例みられましたが、そのうち7例が関西労災式うつ状態調査表の判定で、うつ病に相当する患者でありました関係から、50点を上限とし、51点以上は不定愁訴症候群から除外することとしました。

<表3>

著効 不定愁訴指数減少率が70%以上のもの、及び1クール以内で、不定愁訴指数減少率が40%以上のもの
有効 不定愁訴指数減少率が40%以上70%未満のもの、及び1クール以内で、不定愁訴指数減少率が20%以上40%未満のもの
比較的有効 不定愁訴指数減少率が20%以上40%未満のもの
やや有効 不定愁訴指数減少率が10%以上20%未満のもの
無効 不定愁訴指数減少率が10%未満、及び不定愁訴指数が不変のもの

健康チェック表、重症度判定基準、効果判定基準を使用して、多くの研究を積み重ね生体制御療法の有効性を(社)全日本鍼灸学会および世界鍼灸学会連合会学術大会に報告してきました。
 
以上のことにより、この健康チェック表を用いることによって、患者の状態を把握する一手段を提供できたのみでなく、鍼灸施術の効果を定量的に見出す指標となりえたことから、東洋医学研究所ョでは、すべての患者さんに対してスクリーニングの指標することを決めました。