あなたの体を動かしている筋肉について考えてみよう 東洋医学研究所®グループ 二葉鍼灸療院 院長 田中 良和

平成26年3月1日号

はじめに
運動の目的は何か?と問われますと、その人のおかれている環境や身体状況、健康状態によってさまざまかと思います。しかし、運動を行う大きな目標の一つは、加齢にともない低下する体力を維持し、天寿を全うするまで元気に、イキイキとして生活することではないでしょうか。そのためには身体活動の動力源である筋肉を運動により刺激し、鍛えてゆくことが大切となります。
今回は知っているようで知らない筋肉の生理学的作用の一部についてお話します。

☯ 運動にかかわる骨格筋 ☯
筋肉は、自分の意思で自由に動かすことのできない内臓筋(不随意筋)と自分の意思で動かすことのできる骨格筋(随意筋)に大別されます。胃腸や心臓を動かす筋肉などは不随意筋になります。
さて、この骨格筋の中には多くの筋線維が存在します。それを働きによって分類すると以下のようになります。

○遅筋線維(タイプⅠ線維) 以下ST
ゆったりとした運動時、また、姿勢を維持したり、関節を安定させる時に主に利用される筋線維で、脂肪と酸素をエネルギー源とします。細胞内に酸素を貯めておくミオグロビンというタンパク質や、エネルギーを作る際に必要なチトクロームという酵素が豊富に存在するため、筋線維が赤みを帯びているので、赤筋線維とも言われます。有酸素運動時が活躍の場です。

○速筋線維(タイプⅡ線維) 以下FT
速く強い運動時、また、ダイナミックな運動時に主に利用される筋線維で、糖質をエネルギー源とします。遅筋線維のようなタンパク質が少ないため、筋線維が白く見えることから、白筋線維とも言われます。速筋線維はさらに細かく分類されます。無酸素運動が活躍の場です。

○タイプⅡb線維(速筋線維) 以下FST
ゆったりとした運動時でも、速く激しい運動時でも両方の特性を兼ね備えたオールマイティーな筋線維です。ミオグロビンやチトクロームを適度に持つことから「ピンク筋線維」と言えます。

筋肉の中の筋線維の割合は、生まれる際は遺伝的に決定されていると考えられています(個人差)。その後、多数の人で調べたデータによると、一般的な活動を行っていれば、STとFTの割合は50%ずつ(1:1)のオールラウンドな筋線維の組成になるそうです。
その後、マラソンを行う、短距離走を行う、サッカーをやる、野球をやる、野山を駆け回る、ゲームばかりしている等、人それぞれ、選択する運動環境が違ってきます。その中で筋肉の中の筋線維の組成も変化していきます。
体の数百か所という筋肉が、一つの筋線維できれいに分かれているということではなく、同じ筋肉の中にもFTもSTもFSTも混在するわけで、その筋肉の働き(運動)によって筋線維の配合が違ってくるということです。
運動を継続的に行うとFT、ST、FSTともに増加するわけですが、FTに関してはFSTにも変化するし、FSTからFTにも変化します。ということは運動の質の変化の一端はFTとFSTの比率にあるのかもしれません。
パワー系のトップアスリートを調査すると白筋であるFTはほとんどみられず、ピンク筋のFSTが多くを占めているということです。
また、その機能から関節の安定や姿勢の維持に主に働くインナーマッスルは赤色のSTが多く、関節やダイナミックな動きを出すアウターマッスルは白色のFTが優位となります。
同じ筋肉内をみても表層はFTが、深層になればなるほどSTの占める割合が優位になるということです。
 
☯ 私たち(筋肉)を動かすエネルギー ☯
私たちは日常、電気を利用して快適な生活を送っています。人間の体も筋肉に限らず、血管も、胃腸も、心臓も、脳も、神経も働くためにはエネルギーが必要となります。そのエネルギーを作りだす発電所は各細胞の中に存在します。
骨格筋の細胞の中をみると、運動の強さや持久性により、様々なエネルギー代謝系が存在します。

○ATP-CP系(アデノシン三リン酸-クレアチンリン酸系)
筋細胞内に貯蔵されている物質で、急激な動きが必要で他のエネルギー系では間に合わないような数秒程度の運動時に主に働きます。
 
○解糖系(無酸素運動)
糖(グルコース)を利用してエネルギーをつくります。たくさんのエネルギーをつくることはできませんが、ATP-CP系より少し時間が長くかかる、例えば400m走などの時に主に働きます。FTで重要なエネルギー系です。細胞質内でエネルギー産生が行われます。

○酸化系(有酸素運動)
脂肪と酸素を利用して、多くのエネルギーをつくり出します。ジョギングや自転車など、比較的運動強度が弱い持久的な運動時に主として働きます。STで重要なエネルギー系です。細胞内のミトコンドリアでエネルギー産生が行われます。
これら3つのエネルギー系は人の身体活動、運動において、常により良い状態で動くことができるように、密接に関わり合いながら作用しています。

※ミトコンドリア
ミトコンドリアは近年の研究で多くのことが解明され、生命の維持に関して重要な働きをしていることが分かってきました。老化や生活習慣病、生殖、細胞のプログラム死(アポトーシス)にも深く関係していることが分かってきました。

 
☯ どのような運動がいいのか ☯
運動を行い筋肉量が増えるということは多くのエネルギーを産生するミトコンドリアの量が増えます。また、ミトコンドリアは細胞内でさまざまに変化して働いています。運動を行うと質のよいミトコンドリアができるようです。

☯ ミトコンドリアの量と質をあげる運動とは? ☯
☆30分から60分程度の若干、心地よく息がはずむようなジョギング、ウォーキング、水泳、エアロビクスなどの有酸素運動と、腹筋運動や腕立て伏せ、荷重をかけて筋肥大を目的とするレジスタンストレーニングとを交互に行う運動方法。
☆有酸素運動の中で行うなら、運動に慣れている方はジョギングの途中で少し速く走るようにして息が切れる運動を中にいれ、サーキットトレーニングのように繰り返し行う運動方法。これも30~60分継続できるといいです。
☆運動によりスタミナがついてくる=ミトコンドリアの量が増え活性化されたということ。食事をすると活性酸素が出るが、運動を継続して行うと食事による活性酸素の量が抑えられます。
☆高血圧、糖尿病、心臓病など基礎疾患がある方、または高齢の方は、自分にあった運動を心がけてください。過ぎたるは及ばざるがごとしで、体に大きなストレスとなります。

おわりに
人類は現在、高度な文明を築き上げ、より便利に、より快適に、生活の豊かさを求めてきました。先進国では、その代償として生活の中での運動が減少し、生活習慣病の一要因を占める「運動不足」が問題となっています。
「天寿を全うし、イキイキとした活力ある人生」をおくるために、運動しませんか!ミトコンドリアを増やしてみませんか!

≪参考文献≫
『ミトコンドリアのちから』 瀬名秀明・太田成男 著 新潮文庫 2007.9.
『究極のトレーニング』 石井直方 著 講談社 2007.8.
『エネルギー代謝を活かしたスポーツトレーニング』
八田秀雄 著 講談社 2006.2.
『長生きしたければミトコンドリアの声を聞け』
大谷 肇 著 風詠社 2013.9.