小児のための食養法 東洋医学研究所®グループ 岡田鍼灸院 院長 岡田 静治郎

平成26年5月1日号
はじめに
近年少子化の傾向が一段と増しています。晩婚の上、結婚しない若者が多くなって子どもの出生率が低下しています。
子宝としての子どもの健康維持、増進、疾病の予防として食療法が最適だと言えます。特に発熱、下痢についての食療法を補助として考察しました。

Ⅰ.受精
精とはすべての物質の基本となるもので、腎に蓄えられている。精には、先天の精と後天の精がある。先天の精は、受精の瞬間に両親より受け継がれて生命の素となり、人体の諸器官・組織を構成し、成長・発育・成熟という基本的な生命活動をつかさどる。
さらに、この先天の精は後天の精によって補給される。後天の精とは、飲食物より得られる精をいい、人体で活動する気・血・津液のもととなる。  
この先天の精と後天の精が盛んであると生命力も旺盛であり、臓腑・筋骨も丈夫で気力が充実する。したがって病気に対する抵抗力も強く、成長・発育も順調に進む。

Ⅱ.胎児期の影響
清代に書かれた小児科の専門書である「幼幼集成」には次のように記載されている。
「命門は男子はもって精を蔵し、女子はもって胞に系る。2つの精は妙合して凝し、純粋の精は液を熔して胎を成す。胎を成しての後、その母の関係はさらに緊なり」
(1)両親が高齢で精気が衰えていたり、母体が多産などのために体が弱っていたり、母親が病身で受胎期に元精が不足して受胎したりした場合、受胎後も気血が十分に補給されないと、出生後は、病気に対して抵抗力がないため羅患しやすく、虚弱体質になりやすくなる。
①親の心気が不足―子どもは目や顔に光がなく、どんよりしている。動悸、顔色がどす黒い。チアノーゼ、四肢の冷え。
②親の肝気が不足―子どもは手足がひきつりやすい。筋肉がやわらかい。爪が薄く、もろいか変形している。
③親の脾気が不足―子どもは顔色が黄色く、くすんでいる。口唇が乾燥しやすい。手足が細い。乳を欲しがらない、食欲がない。泣き声に力がない。便がゆるく水様便である。
④親の肺気が不足―子どもは呼吸が浅く、むせやすい、咳がでやすい。鼻づまり、鼻炎。皮膚が弱い。毛髪が少ない。
⑤親の腎気が不足―子どもは骨が弱い。毛髪につやがない。発育不全。大小便の異常。
(2)胎児期に、母親の食べものや母親の感情がストレートに胎児に移行し、出生後もその影響が続くことがある。たとえば、①辛いものを嗜好②熱いものを嗜好③生もの、冷たいものを嗜好④油っこいものを嗜好⑤激しい気持ちの動揺、不安⑥激しい怒り⑦激しい驚き⑧激しい恐怖などである。
これらの過剰の刺激によっても、出生後の小児の体質に影響が及ぶ。

Ⅲ.小児の特徴
清代の書「証指南医案」に、小児の特徴について次のような記載がある。
「すべて小児の陰気いまだ充たざるによりて、外感の風湿、風熱、風火、および寒邪の化熱ならびに燥火の諸症、最も陰を傷り易く、陰、傷るればすなわち血は筋を栄せず、液傷るればすなわち脈絡は滞渋する」
①小児は陰も陽も充実していないが、一般的には、陽は有余、陰は不足の傾向が強く、病証としては熱証をはじめとするような「陽病」を発症しやすい。
②小児は実しやすく虚しやすいため、虚実挟雑(人体に本来必要なものが不足してなおかつ不要なものがあるという混雑した状態)、寒熱錯綜(寒証と熱証が同時に現れる)の症候が一般的である。
③腎気が充実しておらず、臓腑も未熟であるため、病邪に対する抵抗力が弱い。
④気血が充実していない。
よって、小児は大人の小型と考えるのは大変危険である。内外の環境に対して敏感に反応し、抗病力も弱いため、すばやい処置が要求される。

Ⅳ.小児の保健食
小児の成長と発育は、先天の腎気に依存し、この先天の腎気(先天の精気)は、後天の水穀の精微(食事)によって充養されるわけだが、小児の胃腸の機能は未だ完全ではなく、消化・吸収・排泄力についても個人差がある。
食事についても、食べたいだけ食べるということが多く、自分の体の状態をわきまえるということはできないので、消化器系統に問題がでやすいのもこのためである。消化を助ける食品として大棗(なつめ)・茯苓などがある。また、腎気を高め成長・発育を促す食品として山薬(やまいも)やはちみつを使用する。

Ⅴ.小児の発熱
小児の体は、まだ稚陰稚陽の状態で、気血の状態も安定せず、陽が余り、陰が不足する状態にある。熱を持ちやすい状態にあり、いったん発熱すると、高熱を出しやすく、陰液を損ない、ひどくなると肝風内動の状態が起こり、ひきつけ、四肢のぴくつき等の症状が出ることがある。
〈小児の発熱で注意すること〉
1、発熱がひどく汗が多く出るような場合は、脱水症を防ぐために水分の補給を十分にするか、もしくは流動食などのものをとるように心がける。たとえば、緑豆湯・すいか・果汁など。
2、香辛料(胡椒・唐辛子・生姜)類はさらに熱を高めるので、とくに風熱表証、夏季熱、食滞、陰虚証の発熱には禁忌だ。
3、小児は発熱により容易にけいれんやぴくつき(肝風内動)を引き起こすので、肝風内動を起こしやすい鶏肉・豚肉・魚・えび・かに・ねぎ・にら等は避けたほうがよい。
4、風寒や風熱などの外部による発熱においては、酸っぱい食材や渋い食材(梅・あんず・レモン・柿・ざくろ)は収歛性があり、邪気を対外に排出させるのに不利に働くので、控えたほうがよい。

Ⅵ.小児の下痢
〈小児の下痢の中医学的な考え方〉
小児は、消化にかかわる脾胃の機能がまだ十分に発達しきっていないために、環境や不適切な飲食物によってすぐに影響を受けやすく、下痢をしやすい状態にある。
適切な対策を講じるには、虚実寒熱をしっかり区別しなければならない。もともとの体の消化機能が低下したために起こる虚証の下痢は慢性的で、比較的穏やかで便の回数も多くなく、臭いも少ないのが特徴である。
一方、環境や飲食物などの悪い刺激(邪気)によって引き起こされる実証の下痢は、急に起こり、下痢の程度もひどく、回数も多く、臭いも強いのが特徴である。実証の下痢でも寒性の下痢は比較的薄い便で、熱性の下痢は、勢いも激しく、臭いが強く、肛門に灼熱感があるという違いがある。
1、小児は、飲食物が不適切だったり、与え方が不適当だったりすると、下痢を起こしやすいものである。だから、衛生には十分に注意しなければならない。
下痢のときの飲食物はなるべく味が薄く、油っこくない、刺激の少ないものにする。また、やわらかくて、あまり繊維質でないものが適する。たとえば、薄い粥・うどん・スープ・ポタージュ等。大便の回数を増やすような、バナナ・ねぎ・そら豆・さやえんどうの類は避けたほうが良い。
2、急に水様性の下痢が起きたら、8~12時間は食事をさせずに、胃腸への負担をかけないようにする。ただし、その間に発熱したり、汗をたくさんかくようなら、5%程度の砂糖水や食塩水を補給することも大切である。そのほかに酸・甘味があって収斂性がある薄いお茶・りんごのしぼり汁などを与えるとよい。
3、下痢が何日も止まらないようなときは、生ものや冷たいもの・粘っこいもの・固いものなどは控える。
なつめ・はすの実・山薬(やまいも)などを使って粥を作り、そのスープを飲ませるようにする。
4、長く下痢が止まらず、手足が冷たく、痩せてしまったようなときは、人参・羊肉・鯉魚湯・牛肉汁が効果的である。なかなか止まらない下痢には、いちじく・ざくろ皮などの酸渋収斂作用のある食品を与える。

おわりに
医食同源という言葉通り、病気を治すのも食事をするのも生命を養い健康を保つためであり、その本質は同じであります。有機栽培で、無農薬で新鮮な食糧を摂取する事で身体の五臓六腑を整える治療法であり、一日三回の食事で健康保持、増進、疾病治療を行うことは養生保健の方法として最適だといえます。

参考文献-『中医食療法』 瀬尾 港、宗形 明子、稲田 恵子
        『病から古代を解く』 槇 佐知子

        『薬膳教本』 国本清孝