ドライテクニック 東洋医学研究所® 外部主任 中村 覚 平成26年12月1日号

はじめに
これまでの私のコラムでは、皮膚やかゆみについてお話させて頂きました。アトピー性皮膚炎や老人性乾皮症によるかゆみ、ストレスによるかゆみ、人工透析患者さんのかゆみ。そして、かゆみによって皮膚をひっかき、皮膚のバリア機能を壊してしまうことによって更なるかゆみを引き起こす、かゆみの悪循環があります。その悪循環から脱するひとつの方法としてのスキンケアについては、平成19年7月号コラム「スキンケア」でお話をさせて頂きました。
今回は、新生児のスキンケアである「ドライテクニック」についてお話させて頂きます。

ドライテクニックって?
ドライテクニックという言葉を聞いて「知ってる!」という方は、最近身近に出産された方がいるか、新聞をしっかり読んでる方だと思います。というのも、平成26年9月2日中日新聞朝刊に『赤ちゃんに「ドライテクニック」胎脂を残して皮膚保湿』と題して大きく記事が掲載されていたからです。
私がドライテクニックを知っていたのは、2年前に娘が産まれたときにお世話になった産婦人科でドライテクニックが行われていたからで、記事のほうは、新聞をしっかり読んでいる患者さんから教えて頂きました。
ドライテクニックとは、産まれたばかりの赤ちゃんを産湯に入れず、生後5日目頃から体を洗い始めるというスキンケアの方法です。出産直後の赤ちゃんは、皮膚を保護する胎脂が体についているので、なるべく胎脂をはがさずに生活することになります。生後すぐに湯につかることによる体力の消耗を避け、湿疹などの皮膚トラブルも少なくなります。

ドライテクニックで皮膚トラブルが激減
「胎脂は天然の保湿クリーム」といわれ、胎脂を残すことによって肌のきめが良くなり、へその部分も化膿しにくくなったようです。生後すぐに沐浴していた頃は、肌のかさつきや白い膿を伴った新生児中毒疹などのトラブルが頻発していたとのことです。
私の娘がお世話になった産婦人科でも、ドライテクニック導入前は、毎日新生児約20人を沐浴させ、皮膚トラブルを避けるため、全身にローションを丁寧に塗っていたが、それでも湿疹が起こり、薬を使うこともしばしばあり、助産師や看護師の仕事量は膨大だったようです。
ドライテクニックを導入後は、沐浴なし、丁寧なローション塗りなし、皮膚トラブル激減となり、これまでの業務の手間が大幅に省かれた分、赤ちゃんの成長と母親を支える仕事に専念できるようになったそうです。
産まれたばかりの赤ちゃんは皮膚も弱く、外気にさらされることにも慣れていないため、かなりのストレスを受けています。そんな中、あまり手を加えずに、静かに過ごすことが、赤ちゃんの負担を軽くすることになると思います。ドライテクニックは、生後すぐの赤ちゃんに負担をかけないことにもつながっています。

<アトピー性皮膚炎>保湿剤で乳児の発症率3割減少
平成26年10月1日毎日新聞に上記のタイトルで記事が掲載されました。
乳児に保湿剤を毎日、約8カ月間塗ることでアトピー性皮膚炎の発症率を3割減らせたと、国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)のチームが発表しました。保湿剤に予防効果があることを示したのは世界で初めてです。チームは2010年から約3年間、両親や兄弟にアトピー性皮膚炎の患者や経験者がいる乳児118人を、①1日1回以上、入浴後などに保湿剤を全身に塗るグループ②特別なスキンケアをしないグループに分け比較したところ、保湿剤を塗ったグループのアトピー性皮膚炎発症率は、特別なスキンケアをしなかったグループと比べ、32%減ることが分かりました。
アトピー性皮膚炎は一度発症すると完治が難しい疾患といわれていますので、まずは発症させないことが大切です。
また、アトピー性皮膚炎のある乳児は、食物アレルギーを持っていることが多く、アトピー性皮膚炎発症予防は食物アレルギー発症予防にもつながります。産まれてすぐからスキンケアをすることの重要性がはっきりした報告だと思います。
現在、日本では、3人に1人はなんらかのアレルギーを有しているといわれており、アレルギー児は増加し続けてますが、今回の発表が少しでもアレルギー児増加の歯止めになることを願っています。

おわりに
ドライテクニックは1970年代に米国小児科学会が感染症を減らすために提唱した方法ですが、日本での普及はまだ進んでいないようです。その背景には、日本では、産まれてすぐ産湯につけることが、穢れを払い、鎮守の神の守りを受けるなどの儀式的・文化的意味や、見た目の清潔感などがあるようです。私の娘がお世話になった産婦人科では2012年からドライテクニックを導入していますが、地元の他の産婦人科ではまだ行っていません。記事によると国内では関東圏を中心にドライテクニックを導入する医療機関が増えているとのことです。
乳児の湿疹の鍼治療は、臨床の現場でよく経験します。乳児などの子供は、敏感で反応もよく、比較的早期に改善されることが多いと思います。また、成人・高齢者においても、鍼治療をすることによって身体が元気になり、肌の色・艶・肌理(きめ)・張りも良くなります。
これから、乾燥する季節になりますので、乾燥肌にならないように鍼治療でスキンケアしましょう。