たばこについて3  ~三次喫煙(残留受動喫煙)~ 東洋医学研究所Ⓡすずらん鍼灸院  院長 迫井 豪 平成27年12月1日号

はじめに
たばこが身体に悪いことは広く知られています。また、たばこの副流煙(たばこの先から出る煙)と呼出煙(喫煙者が吐き出す煙)を吸い込む、二次喫煙(セカンドハンドスモーク、受動喫煙)が健康に悪影響を及ぼすことも一般的に知られるようになりました。
さらに近年の研究では、たばこ煙成分が部屋や物にしみ込み、たばこ煙が消失した後も有害な化学物質を放出し、それによって健康被害を受ける三次喫煙(サードハンドスモーク、残留受動喫煙)の問題が指摘されています。
 今回はこれを紹介したいと思います。

三次喫煙
三次喫煙という言葉は、アメリカ国立癌研究所指定癌センターの一つであるダナ・ファーバー癌研究所のジョナサン・ウィニコフ教授らが2009年に発表した論文で初めて用いられた新語です。
喫煙者が自分自身の肺に吸い込む一次喫煙(ファーストハンドスモーク、直接喫煙)に対して、喫煙者が吐き出す煙や保持するたばこの先から立ち上る煙などが大気を経由して他人に吸入されることが二次喫煙です。三次喫煙は二次喫煙が終わった後も表面上にまだ残る有害な化学物質を吸入することをいいます。
たばこ由来の有害化学物質は、部屋のカーペットやソファーなどに長く残留することが知られており、喫煙者の衣服や体表にも付着します。つまり、たばこ煙に含まれる物質が喫煙者の髪の毛、衣類、部屋に付着して、それが揮発(常温で気体となって発散)したものが汚染源になり、第三者がたばこの有害化学物質にさらされることになります。
たばこ煙から排出されるニコチンや他の有害化学物質のほとんどは空気中ではなく物の表面について揮発するため、換気扇を使用したり窓を開けて換気をしても三次喫煙のリスクは排除できません。
また広い意味での三次喫煙被害には、喫煙が行われた場所で生じる悪臭による精神的被害も含まれます。この場合、対処法として消臭剤の散布などが行われることがありますが、それはあくまで臭いを消しただけで、有害化学物質は残存したままになります。

三次喫煙に関する研究
豊橋技術科学大の齊戸美弘准教授らは、1リットル中のナノ(10億分の1)グラムという微量の物質を正確に測定する機器を開発し、2009年に三次喫煙についての論文を発表しました。実験は自動車内でたばこの先端に火をつけ、燃焼後に車内を換気したうえで、ベンゼン、トルエン、アンモニアなど、たばこの有害化学物質の空気中濃度を調べたものです。
この実験のなかで車の換気後、再びドアを閉めたところ、車内の空気中の有害化学物質の濃度は徐々に上昇し、一定の高さで変化が止まりました。これは内装材に吸着した物質がゆっくり発散するためです。密閉度の高い車内では外に流出しにくく、有害化学物質の除去は大変難しいと考えられます。
「二次喫煙が短い期間でその空間から消えた後も、ニコチンと他の要素は表面を覆って毒素を発し続ける傾向がある。」
「確実に換気をして喫煙しても、その空間では三次喫煙による堆積を排除できない。」
2010年にPNAS(米国科学アカデミー紀要)で発表された調査結果により、車や部屋の内部に残留するたばこのニコチンが、大気中の亜硝酸と反応して発がん物質であるニトロソアミンがつくられることが判明しました。
この調査では長い間喫煙されていた車両の内部を拭くために使ったセルロース基質(綿はそのほとんどがセルロース)の亜硝酸が、一般的な家庭でみつかる 4~12倍のレベルの濃度であることが示されました。
喫煙を行った後に 3日間同じ車両で拭くことなく放置していたセルロース基質も、同じような結果になりました。

おわりに
三次喫煙は比較的新しい研究分野であり、煙と環境汚染物質からなる化合物がいつまで残存するのかなど正確にはまだわかっていないことが多いです。
しかし、たばこの煙の残留物が染み込んでいるかもしれない絨毯の上をハイハイし、カーペットの上で眠りに落ち、家具をしゃぶる乳幼児は、その毒性作用を最も被りやすいと考えられています。
また三次喫煙は発がんリスクだけではなく、ぜんそく発作やアレルギー反応を含む他の健康問題にも関与する可能性が指摘されています。
喫煙が、がんや心疾患、早期死亡の原因となることが証明されるまでには何十年もかかりました。
その後、二次喫煙の害が立証されるまでにはさらに年数を要しました。
三次喫煙の健康リスクの大きさは、正確にはまだ判明していません。しかし、小さなお子さまをお持ちの方は、特に心にとどめておく必要のある問題ではないでしょうか?

引用・参考文献
○禁煙支援マニュアル(第二版)厚生労働省 健康局 がん対策・健康増進課
 http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/kin-en-sien/manual2/dl/manual2.pdf
○禁煙センセイの"楽しく禁煙"
 http://smoke-free.cocolog-nifty.com/
○迅速かつ高感度な三次喫煙評価法の開発 豊橋技術科学大学工学部 齊戸美弘
 http://www.jsac.or.jp/tenbou/TT58/p11.pdf
○サイエンティフィックアメリカン(Scientific American)
"What is third-hand smoke? Is it hazardous?" 2009/1/6
 http://www.scientificamerican.com/article/what-is-third-hand-smoke/
○PNAS(米国科学アカデミー紀要)
"Formation of carcinogens indoors by surface-mediated reactions of nicotine with nitrous acid, leading to potential thirdhand smoke hazards" 2010
 http://www.pnas.org/content/107/15/6576.long