人生百歳時代 健康長寿に鍼治療を 東洋医学研究所® 所長 黒野保三 平成29年1月1日号 

東洋医学研究所®所長 黒野保三

謹賀新年 皆様にはお健やかに新春をお迎えのこと心よりお慶び申し上げます。
日本におけるセンテナリアン(100歳を越えた人)は、2016年9月時点で65692人になり、世界全体では45万人にのぼるといわれています。現在、100歳を越えても健康で長生きをしている人たちの研究が世界中で進められていて、誰でも条件次第で健康長寿を実現できることがわかってきました。
慶応義塾大学医学部百寿総合研究センターでは、1500人の高齢者を最大10年間追跡調査し、臓器の状態や代謝など身体のどの機能が寿命の長さにどう関係しているのかを分析した結果、唯一寿命との関わりが見られたのが慢性炎症でありました。
慢性炎症と生存率の関係は、慢性炎症のレベルが高い人は年を追うごとに生存率は低下していき、炎症レベルが低い人程生存率が高く、より寿命が長いことが明らかになりました。この傾向は調査したすべての年齢層で一致し、慢性炎症を抑えることが健康長寿の達成には重要であることが明らかになりました。
慢性炎症は年を取る毎に必然的に起こってきます。体の中の細胞が老化すると炎症性サイトカインという炎症を引き起こす物質が分泌され、それが周囲の細胞を老化させ、炎症が広がります。さらに死んだ細胞からは細胞の断片や老廃物が出され、更なる炎症の引き金となるのです。
本来は免疫応答によって素早く炎症の要因を取り除く機能を持っていますが、加齢とともにだんだん免疫機能が低下するので炎症の要因を取り除く機能が悪化し、その結果全身に広がってしまい、糖尿病、動脈硬化、肺疾患、心疾患などの重大な病気に関わってくることは明らかであります。慢性炎症と疾患の悪循環で、加齢によるさまざまな疾患になりやすくなっていくのです。
また、デンマークで行われた同じ遺伝子を持つ双子の研究で、寿命を決めるのは、遺伝要因が約25%、環境要因が約75%であることが明らかとなりました。10万組の双子の寿命を生涯にわたって追跡調査した結果、同じ遺伝子であるにもかかわらず寿命には大きな差が生じることがわかりました。つまり、誰もが健康長寿を実現できる可能性があるのです。
では、どうすれば慢性炎症を抑えることができるのでしょう。
1.食事
地中海食と長寿の関係を調べるための大規模な研究「地中海食プロジェクト」の結果、これまで地中海食はすべての人に同じように効果をもたらすと考えられてきましたが、実際はそうではなく、人種、ライフスタイル、性別などさまざまな要因によって得られる効果が違っていることがわかり、年月をかけて体に合ってきた食事のほうがより慢性炎症を抑制する効果があるということが明らかになりました。
日本人には日本食(炎症を抑える成分が豊富に含まれていること、いろいろなものを少しずつバランスよく摂ること)がベストであるといえます。
2.身体活動
イタリアのサルデーニャ島は世界一男性の長寿率が高く、センテナリアンの男女比は1対1であります。
この地域の男性に共通したライフスタイルは、豊富な活動量に加えて、負荷の強い動きをしています。これが長寿の要因に繋がっているとのことです。
運動が体に良いことはこれまでも知られていましたが、実は最近になって炎症との関係が科学的に明らかになってきたのです。それは身体活動量の多い長寿の人の体内を調べた結果、極めて優れた"微小循環"を持っていたのです。
微小循環とは、全身に張り巡らされた毛細血管の中で起きている目に見えないレベルの細かな血流のことで、細胞に必要な酸素や栄養素を送り続けるとともに、溜まった老廃物を回収するという役割をもっています。この微小循環が慢性炎症につながる要因を取り除き、老化のスピードを緩めている可能性がみえてきたのです。
3.心の持ち方
人の満足感と炎症との関係を研究しているカリフォルニア大学医学部スティーブン・コール教授は、男女84人の被験者を対象に日々の幸せや人生での充実感、日常で得られる達成感など、さまざまな満足感を聞きとり、その後、調査した人たちの血液を採取して分析を続けた結果、満足感と炎症との関わりを示すCTRA遺伝子群が見つかったのです。
この遺伝子群は人が何らかのストレスを受けた時に働きを強め、逆に満足感を得るとその働きが弱まります。遺伝子の働きが緩やかになった時、慢性炎症が抑えられるという相関関係が明らかになったのです。
さらに研究を進めると、満足感の種類(コール教授による分類)によっては全く違う働きをすることもわかってきたのです。
・炎症を進める満足感『快楽型満足感』
食欲(食べたいだけ食べる)、買い物(むやみに買い物をする)、性欲、娯楽など、自分の欲求を満たすことで生じる満足感。   
・炎症を抑える満足感『生きがい型満足感』
ボランティア活動、家族を大切にする、世のために働くなど、社会とのつながりやお互いに助け合うことで生じる満足感。
コール教授は、満足感の違いに遺伝子はとても敏感であることが明らかになり、人のために生きるという心や、社会のために貢献する姿勢、それが健康長寿に結びついていると指摘しています。 

少子高齢化が進み、医療経済の破綻が大きな問題となっている日本を救う道は"健康長寿"の達成であり、できる限り多くの人に健康で長生きしていただくことが理想であります。
そのために、最新のセンテナリアンの研究結果を参考にして頂き、生体の制御機構を活性化させ、恒常性維持機構の活性化や生体防御機構の増強に関連した実証医学的研究の裏付けのある鍼治療の受療をお勧めします。
尚、鍼治療の持続効果は72時間位でありますので、できるだけ週2回以上の受療をお勧めします。
病気にならない身体を作りましょう。
長生きできる身体を作りましょう。

                                                                                      
マウスに鍼治療を施しているところ
 

 
鍼治療を2年間・週2回施したマウス(上)は、鍼を施していないマウス(下)に比べて毛並もよく若さを保っている

参考文献
・黒野保三、石神龍代、山田耕、河瀬美之、狩野義広、馬渕良生、渡仲三:生体の防御機構と鍼灸医学.全日本鍼灸学会雑誌42(3).1992;234-244
・Kurono Y, Minagawa M, Ishigami T, Yamada A, Kakamu T, Hayano J.Acupuncture to Danzhong but not to Zhongting increases the cardiac vagal component of heart rate variability. AutonNeurosci.161. 116-120:2011
・黒野保三、各務壽紀、皆川宗徳、石神龍代、山田 篤、早野順一郎:心拍変動解析による鍼刺激に対する自律神経反応の評価―腹部鍼刺激に対する自律神経反応の評価―.自律神経,49:251-256.2012
・石神龍代、黒野保三、皆川宗徳、山田篤、各務壽紀、早野順一郎:黒野式全身調整基本穴への鍼治療(筋膜上圧刺激)による睡眠の質の改善効果―OSA睡眠調査票MA版を用いた自覚的な睡眠の質の効果―.全日鍼灸会誌.66(1).2016 ;24-32

引用資料
NHKスペシャル「あなたもなれる健康長寿 徹底解明100歳の世界」
平成28年10月29日放送