顔面神経麻痺通信4 ベル麻痺について

ベル麻痺は単純ヘルペス1型の再活性化が原因で起こることが多い末梢性顔面神経麻痺をさし、イギリスの有名な解剖学者であったSir Charles Bell(1774~1842)の記載により彼の名前が付けられるようになりました。
日本での全顔面神経麻痺の患者数は、年間約65,000人で、そのうちベル麻痺は約40,000 人と顔面神経麻痺の約60%を占めます。
人口10万人当たりの年間のベル麻痺発症例は、欧米では15~20例、あるいは20~30例などの報告がみられます。わが国では愛媛県における32例、あるいは山形県における25例などの報告があります。これらを参考にすると、欧米と日本、さらに日本の西部と北部で発症頻度に顕著な差異はないものと思われます。性差はなく、発症年齢は全ての年齢で発症しますが、50歳台にピークを持ち10歳以下は少ないです。ベル麻痺の発症数に季節性はありません。
ベル麻痺については良好な自然治癒が認められます。ベル麻痺の71%がまったく後遺症のない状態まで、また83%が満足な改善といえる状態まで自然回復します。自然経過での不全治癒は17%であり、高度な後遺症がみられるのは4%です。
ただ、臨床所見ではベル麻痺と鑑別が困難なZSH(無疱疹帯状疱疹)の存在が問題となります。ZSHは水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)によって生ずる顔面神経麻痺ですが、体表に疱疹が出ないため、ベル麻痺と臨床では診断されていると考えられます。
ZSH はBell麻痺と比較して、より難治性で後遺症を残しやすいので注意が必要です。


(文責 井島晴彦)