お天気と体の関係(3)東洋医学研究所®グループ かどむら鍼灸院 院長 角村 幸治 平成31年2月1日号

2月はまだまだ寒い季節。しかし、2月の異名は「中の春(なかのはる)」、「初花月(はつはなつき)」、「梅見月(うめみつき)」など春が連想できる時期であり、3日は「節分」、4日は「立春」と暖かくなってきそうな気配のする月です。暖かな季節までもう少しですね。
前回は、気圧が体に与える影響をお話しました。簡単に要約すると、天気と体の関係を研究する分野を生気象学と言いますが、佐藤純先生の報告では、気圧が下がるときに痛みが強くなり、それだけではなく、うつが悪化するなど精神的にも影響を与えることがわかってきたことを話しました。
今回は、季節と体の影響について、少し話したいと思います。私が研究している東洋医学の古典「黄帝内経素問」の中には、季節と体の関係について多く書かれています。例えば、「四気調神大論篇第二」には、「春は新しいものを出す季節であり、ものみなすべてが生き生きと栄えてくる。体をのびやかにし、心持ちは活き活きと生気を充満させ、目を楽しませるべきで、体をしいたげてはならない。夏は万物が繁栄し、秀麗となる季節で、暑さを厭うことなく、気持ちを愉快にすべきで怒ってはならない。秋は万物が成熟し収穫の時期である。心を安らかに静かにさせて、外に働かせず気を清浄に保持しなければならない。冬は万物の生物機能が潜伏する時期である。秘密をつかんだような愉快な気分で、厳寒を避け、温暖に保ち、汗を出すようなことをして、体の気に影響を受けさせてはならない。」と、季節における養生法が書かれています。クーラーも暖房もない2000年以上前の時代に、四季の気候変化に従い、体調を整えることは、養生と、病気の予防などにとても大切なことだったのです。

 

現在においても、季節と体の影響は重要視されてきています。一昔前は「夏バテ」という言葉しか聞きませんでしたが、最近では「春バテ」という言葉も使われるようになってきました。夏は暑さで「バテる」のですが、春は何で「バテる」のでしょうか。川嶋朗先生は、2月から5月は1年の中で一番気温の変化が激しく、1週間の中でも15℃の差がある時もあり、この気温差が体の不調を引き起こすことを報告しています。
川嶋先生は「激しい寒暖差や春特有の環境の変化(ストレス)などが原因となって、自律神経が乱れ、『だるい』『イライラ』『やる気がでない』などの症状が現れることがあります。このような症状を春バテと呼んでいます。また、『昼間眠い』『目覚めが悪い』『夜眠れない』などの睡眠の不調があらわれるのも春バテ特有の症状といえます。昨日は、暖かかったのに、今日は極寒といった前日との寒暖差が最も身体にこたえるのです。バテないためにも日頃の予防と対策が必要です。」と春における養生の重要性を話しています。
春バテの身体的な症状として、昼間眠い、身体がだるい、肩がこる、疲れる(倦怠感)、目覚めが悪い、腰痛、頭痛、手足の冷え、お腹の不調、夜眠れないがあり、精神的な症状として、イライラする、憂鬱(ゆううつ)、気分の落ち込み、不安感があります。
私たちの研究では、四季のうちで春が一番不定愁訴(体調が悪いという自覚症状を訴えるが、検査をしても原因となる病気が見つからない状態)が多いという結果でした。不定愁訴の項目の中で、春に多かったのは、腰や背中が痛くなる、手足が冷える、手足に痛みやしびれがある、耳鳴りがする、性欲の衰えを感じるでした。
気持ちのよい暖かな春を迎えるにはどうすればいいのでしょうか。川嶋先生は、春バテの予防と対策は、自律神経を整え、交感神経と副交感神経の切り替えを適正かつスムーズに行うようにすることであると話しています。
自律神経機能の調節については、東洋医学研究所®所長黒野保三先生の長年の研究により、生体制御療法の鍼治療により自律神経が整うことがわかってきています。春になると体の調子が悪くなる方は鍼治療を受けてみてはいかがでしょうか。

引用・参考文献
・佐藤純、溝口博之、深谷佳乃子.天候変化と気分障害.日本生気象学会誌.48(1)3-7.2011.
・石田秀美.現代語訳 黄帝内経素問.東洋学術出版社.序文.2006.
・Kurono Y, Minagawa M, Ishigami T, Yamada A, Kakamu T, Hayano J. Acupuncture to Danzhong but not to Zhongting increases the cardiac vagal component of heart rate variability. Autonomic Neuroscience:26(1・2).2011:116-20.
・寒暖差による不調「春バテ」が急増!?.監修:東京有明医療大学 川嶋 朗教授

https://www.well-lab.jp/201803/feature/14015