睡眠教育のスペシャリスト 「睡眠育成士」誕生 東洋医学研究所®グループ二葉鍼灸療院 院長 皆川 宗徳 令和元年8月1日号

〇睡眠育成士について
平成30年3月に、名古屋市立大学睡眠医療センター長の中山明峰先生は「現在、子供に限らず、全国民の睡眠動態が悪化しており、睡眠障害は社会的に大きな損失となっている現状を鑑み、これからは、睡眠教育の普及が非常に重要であり、小中学校、企業などで、睡眠教育を実践するためには、睡眠育成士の養成が急務である。」と睡眠教育の重要性を訴えられました。
公益社団法人 生体制御学会は従来の研究活動の中で生体制御学会不定愁訴班が行ってきた睡眠研究において、鍼治療が有効であったことをふまえて、睡眠教育の重要性を広く一般市民の方々にも普及できるのではないかと考え、平成30年6月から生体制御学会定例講習会において、名古屋市立大学睡眠医療センター認定睡眠育成士認定講座を開講しました。
この睡眠育成士認定講座は年間で5回実施され、全4単位を取得し、最後に認定試験を受け合格した54名に、令和元年6月2日、名古屋市立大学睡眠医療センターより第一回の睡眠育成士認定証書が授与されました。
睡眠育成士は、睡眠衛生について学んだことを非営利的に情報を拡げることを目的としており、本講座で認定された睡眠育成士は、学校などの教育施設より睡眠教育の要請があった際には積極的に応じていき、学校などで睡眠の大切さを伝え、児童生徒の生活習慣を改善させる活動をしていきます。

〇発達期の子どもの睡眠の現状と問題点
文部科学省では、2014年に「睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との関係性に関する調査」として、全国的な実態を把握することと、生活習慣と小中高生の心身の状態との関連を明らかにすることを目的として2万人規模による全国的な調査を実施しました。
まず、調査は全国の小学5年生から高校3年生までの(学年ごと100校)計800校を対象に行われました。有効回答数は2万3139名でした。「次の日学校がある日」の就床時刻を見ると、小学生でも午後11時以降が15%近くいることがわかりました。また学年が上がるごとに夜更かしは増え、高校生では50%弱が夜12時以降に寝ています。
調査結果から、就寝時刻・起床時刻・さらに朝食欠食が「午前中調子が悪い」と関連していることがわかりました。また朝食を食べない小学生ほど「なんでもないのにイライラする」と答え、就寝時刻が早い子ども、朝食時、家の人と会話している小学生は「自分のことが好き」と答えています。体は気持ちを代弁し、気持ちは体が発する本音のメッセージでもあります。十分な睡眠がとれて、朝、機嫌よく家族と朝食をとる子どもは、登校時、元気で前向きな気持ちでいるに違いありません。 学びに向かう姿勢は、実は子どもの生活習慣が支えているといえます。

もうひとつ、今回の調査でも重要性が確認されたことがあります。それは生活リズムの問題であります。「次の日に学校がある日とない日」とで起床・就床時刻が2時間以上ずれることを尋ねると、「よくある」「ときどきある」をあわせ、3〜4割いることがわかりました。ずれることが多い子どもは「午前中、授業中にもかかわらず眠くてしかたがない」が多く、平日と休日のズレが2時間以上ある子どもたちは、午前中の眠気 やイライラなどを強く感じていました。規則正しい生活の継続が必要であります。
今後、良好な睡眠を確保するためにも、子どもたちへの正しい睡眠教育が益々重要になってきます。睡眠育成士の今後の活動が期待されます。
引き続き(公社)生体制御学会では、2019年度も睡眠育成士認定講座を開講しています。

文献
1) 文部科学省:睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との関係性に関する調査結果:http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/katei/1357460.htm
2)Kurono Y, Minagawa M, Ishigami T, Yamada A, Kakamu T, Hayano J.Acupuncture to Danzhong but not to Zhongting increases the cardiac vagal component of heart rate variability. AutonNeurosci.161. 116-120:2011
3)黒野保三、各務壽紀、皆川宗徳、石神龍代、山田 篤、早野順一郎:心拍変動解析による鍼刺激に対する自律神経反応の評価―腹部鍼刺激に対する自律神経反応の評価―.自律神経,49(1):251-256.2012
4)Minagawa M, Kurono Y, Ishigami T, Yamada A, Kakamu T, Akai R, Hayano J.Site-specific organ-selective effect of epifascial acupuncture on cardiac and gastric autonomic functions.AutonNeurosci.179(1-2).151-154:2013
5) 皆川宗徳、黒野保三、石神龍代、山田 篤、各務壽紀、早野順一郎:心拍変動解析による鍼刺激に対する自律神経反応の評価―腹部鍼刺激の経穴特異性の検討―.自律神経,52(2):145-151.2015.
6) 石神龍代、黒野保三、皆川宗徳、山田 篤、各務壽紀、早野順一郎:黒野式全身調整基本穴への鍼治療(筋膜上圧刺激)による睡眠の質の改善効果―OSA睡眠調査票MA版を用いた自覚的な睡眠の質の評価―.全日本鍼灸雑誌.66(1):24-32.2016