第72回世界保健総会(WHO)において、国際疾病分類ICD-11に伝統医療(鍼灸や漢方薬など)を新たに導入することが採択されました 東洋医学研究所®グループ  井島鍼灸院 院長 井島 晴彦 令和元年10月1日号

はじめに
2018年1月9日の産経新聞は、「漢方薬や鍼灸など(伝統医療)をWHOが認定へ」という見出しで、漢方薬や鍼灸など日本や中国の伝統医療が、2018年の6月に開催される世界保健機関(WHO)の総会で認定される方針であることを報じました。具体的には、国際的に統一した基準で定められた疾病分類である「国際疾病分類」(ICD)に、伝統的な東洋医学の章が追加され、100年以上、西洋医学一辺倒だった世界の医療基準の転換点となるとともに、中国と異なり独自に発展してきた日本の伝統医療の再評価につながるというものでした。
関係者によると、WHOが伝統医療に注目したのは、同機関で扱う医療の統計が西洋に偏り、伝統医学での治療に依存しているアジアなどでほとんど統計が取られていないとされる「情報格差」を埋めることが目的であるということでした。
その後、2018年 6 月の世界保健総会でICD-11が公表され、2019年 5 月に採択されました。
今回はICDとは何か、そしてICD-11の開発経緯について紹介させて頂きます。

ICDとは
「疾病及び関連保健問題の国際統計分類:International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems(以下「ICD」と略)」とは、異なる国や地域から、異なる時点で集計された死亡や疾病のデータの体系的な記録、分析、解釈及び比較を行うため、世界保健機関憲章に基づき,世界保健機関(WHO)が作成した分類であり、WHO国際分類ファミリーにおける「中心分類」の一つです。
ICDは1900年(明治33年)に国際会議で初めて採択され、当初は死亡統計の分類として使用されていましたが、時代のニーズに応えて疾病統計等へ視野を拡大して改訂を重ねてきました。我が国でも1900年からICDを採用し運用を行っており、現在では、ICD-10に準拠した「疾病、傷害及び死因の統計分類」を作成し、統計法に基づく統計基準として告示改正を行い、2016年より人口動態統計や患者調査等の公的統計に使用しているほか、医療機関における診療録の管理等に活用されています。

ICD-11の開発経緯
ICD-10改訂から約30年経ち、時代が要請する様々なニーズに応えていくため、2007年からICD-11の開発が開始されました。2016年に東京で開催されたICD-11改訂会議において加盟国レビュー用のICD-11案が公表、多くの診療情報管理士の協力も得ながらフィールドテストを進め、2018年 6 月のICD-11公表を迎えました。この公表を受けて、加盟国は自国の適用へ向けた準備を開始し、2019年 5 月世界保健総会で採択されました。
ICD-11の特徴の1つとして、漢方薬や鍼灸など日本や中国の伝統医療が、新たに導入されました。日本の漢方は古代中国に起源があるものの、西洋医学と融合し、中国とは運用方法や処方の作り方も異なるなど独自の発展を遂げました。鍼灸も奈良時代に漢方とともに伝えられ、「日本の医療」として進化しました。
ICDの作成にも携わった千葉大学の並木隆雄診療教授(和漢診療学)は「WHOに公式に認められれば、日本の伝統医療の地位向上に役立つ。科学的な調査のもと、漢方の有効性も検討でき、成果は国民に大きく還元される。」と話されています。
 

おわりに
アメリカ・ドイツ・中国に代表される世界の国々では、鍼治療の研究が盛んに行われ、医療の現場に積極的に取り入れられるようになりました。そのような世界的な流れの中で、ICD-11に伝統医療を新たに導入することが採択されたと考えられます。そしてこの流れは、昨年からNHKの「ガッテン」などで鍼灸治療が何度か取り上げられたように日本にも押し寄せています。
東洋医学研究所®の黒野保三所長は、鍼灸の地位を高めたいという情熱を持ち続け、昭和35年から鍼灸医学の基礎研究・臨床研究によって鍼灸診療を行ない、多くの研究を積み重ねてこられました。そして、伝統ある鍼灸医学の真髄を基盤とし、東西両医学の提携により治療の完璧を期すると共に、学会などの組織の拡充、人材の育成にも努めてこられました。
東洋医学研究所®及び東洋医学研究所®グループは、黒野保三所長の理想とする「東洋医学と西洋医学の長所を融合した長寿社会の全人的医療」を実践させて頂く好機を迎えたと感じます。
是非、この機会に健康に関するご相談を東洋医学研究所®及び東洋医学研究所®グループにお寄せ下さい。

引用・参考文献
1)産経ニュース:漢方薬や鍼灸など「伝統医療」WHOが認定へ 日本の漢方、地位向上へ
https://www.sankei.com/life/news/180109/lif1801090004-n1.html
2)森桂:ICD-11国内適用の展望. 厚生労働省政策統括官(統計・情報政策、政策評価担当)付 参事官付国際分類情報管理室 日本WHO国際統計分類協力センター
http://www.who-fic-japan.jp/img/events_attended/report_who_japan_forum2018/03_04.pdf
3)ICD-11の概要:第7回社会保障審議会統計分科会疾病、傷害及び死因分類部会資料.