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コラム

2020年10月 1日 木曜日

楽しく体を動かしましょう 東洋医学研究所®グループ  たかやま鍼灸院 院長 高山 加奈子 令和2年10月1日号 

はじめに
令和2年は新型コロナウイルスとの闘いの一年となりました。
患者さんの多くが自律神経の失調症状を訴えられ、女性患者さんの大多数が月経周期に乱れがあると答えています。しかし、体調不良を感じても以前のようには、病院受診をする気になれないという声も聞かれます。そこで、必要となるのがセルフケアです。今回は、運動不足を訴える女性が多くみえましたので、自宅でできる運動について提案させて頂きます。

ホルモンバランスの乱れが自律神経の不調を招く
女性ホルモンの分泌は脳や神経からの指令でコントロールされているため、ストレス・不規則な生活・睡眠不足といったちょっとしたことでもバランスが乱れてしまいます。ホルモンの分泌量が変わったり、サイクルが変化したり、また加齢のために分泌量が減ったりすると、さまざまな不調の原因となります。めまいやふらつき、動悸、倦怠感、頭痛、不眠......といった多種多様な症状を引き起こす「自律神経失調症」には、ホルモンバランスの変化が深く関わっています。ホルモンの分泌と自律神経をコントロールする脳の部位が近いため、ホルモンバランスの乱れが自律神経の不調を招き、またその逆も起こり得ます。

運動は自律神経を活性化し、ホルモンバランスを整える
有酸素運動と言えば「ジョギング」や「ウォーキング」「水泳」などのイメージがありますが、室内でできる有酸素運動を3つご紹介します。
<踏み台昇降運動>
片足ずつ上って下りてを繰り返します。
エクササイズ用のものでなくても、高いものをとるときの踏み台などを活用してもOKです。階段を利用するのも手です。
<フラフープ>
広いスペースを確保できるなら、楽しみながらできるので続けやすいです。
とくにウエストが気になるかたにおすすめです。
<エア縄跳び>
実際に縄がなくても縄跳びをしているように手首を回しながらジャンプします。たまに、身体をひねってみたり、バリエーションを加えてやると飽きずに続けられるはずです。子供の頃を思い出してやってみましょう。
1日を通して20分以上
以前は一度の有酸素運動で20分以上続けるように言われましたが、現在では1日を通して20分以上であれば、同じ効果があるといわれています。 まとまった時間を取れない場合は、10分の運動を2回以上など、分けて行うようにしましょう。
筋肉量は落とさずに脂肪量を落としたい時は、有酸素運動の前に筋トレを行いましょう。『筋トレ(無酸素運動)→有酸素運動』の順番で行うことで、効率的に体脂肪を燃やすことができます。
一人で運動するのはどうもという人は、テレビ体操やラジオ体操、動画を見ながらヨガをするというのはどうでしょうか。無理なく続けられる運動のしかたをみつけていきましょう。

こまめに体を動かしましょう
そうは言っても、運動となるとハードルが高いという人は、生活の中で身体を動かすことを心がけましょう。洗い物をする時には、つま先立ち。歯を磨く時はスクワット。今まで以上に窓ふきや雑巾がけを行うのもいいでしょう。リュックサックをしょって、歩いて買い物に行けば、ハイキング気分にもなります。夜寝る前のストレッチは、腹式呼吸と合わせて行いましょう。リラックスできて、良い眠りにつながりますので、習慣化できるといいですね。自分なりのやり方を工夫してみてください。

おわりに
東洋医学研究所®所長 黒野保三先生の長年の研究により、生体制御療法(東洋医学研究所®HP参照)の鍼治療により自律神経が整うこと、免疫力が高まることがわかっています。鍼治療をして新型コロナウイルスに対抗できる身体をつくっていきましょう。

参考引用文献
・新野博子:女性ホルモンの増やし方.株式会社宝島社.2012
・青空レディースクリニック:不調の原因、自律神経失調症は生活習慣の見直しから改善をめざす https://doctorsfile.jp/h/37570/mt/1
・松葉子:自宅で簡単にできる運動ダイエット https://lulucos.jp/by- s/article/576417101949241059
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2020年9月 1日 火曜日

触覚について 東洋医学研究所®グループ  二葉鍼灸療院 院長 角田 洋平 令和2年9月1日号

はじめに
今年の春、新型コロナウイルスの蔓延により世界的な行動制限が敷かれる緊急事態となりました。コロナウイルスの影響で外に出掛ける機会もめっきり減ったものと思います。
外出の機会が減ったことにより、例えば買い物や旅行などで何か真新しい、外部のモノに触れるという機会も同時に失いました。インターネットは便利で、そんな中でも観光地や欲しい洋服などの写真を見ることはできますが、何か物足りなさを感じるのは実体を伴わないからです。通販で良いなと思って買ったものが、届いてみたらイマイチだったということはよくある話で、「錯覚」という言葉があるように視覚は騙されることの多い感覚です。それに対し触覚は、触れたモノがそこに実在することを確信させてくれる感覚で、触れる事で安心を得ることが出来ます。「肌に合う」とか「肌で感じる」とはよく言ったものだと思います。
しかし世の中は、コロナ以前からなるべく触れない方向に突き進んでいました。私達が日常で触れるモノの多くは、ツルツルスベスベした工業製品ばかりです。それに、「危険だから」「汚いから」という理由で、母親は子供が好奇心でいじろうとする手をさえぎります。また、各種ハラスメントの認識が一般的となり、触覚に関しての寛容さがどんどん失われてスキンシップも減り、人間関係は昔に比べてはるかに緊張感が増してきているように思えます。
そこに拍車をかけるように今回の大規模感染が起きて、皮肉にも殆どの接触が遮断されました。そんなこともあってか、外出自粛中にネットショッピングで購入した新しいものに触れたり、園芸などの土いじりに多くの人が精を出したのは、三密を避けてきた我々の触覚に対する飢餓感からの行動なのではと思ってしまいます。

自己防衛から社会生活へ
では、触れるということは我々にどんな感情をもたらすのでしょうか?
まず体表の皮膚は、体の広範囲で外界のモノに触れて確認や防御の役割を果たしています。体外と体内を隔てる境界といえる膜で、体温が上がりすぎれば感知して汗をかくし、下がりすぎれば鳥肌を立てて熱の放散を防いでくれます。こういった防御機能や感覚機能の他に、進化の中でもう一つ目的が出来ました。それが"スキンシップ"です。人間に限らず集団で社会生活や家庭生活を営む動物は、積極的に仲間と触れあい、親密の度合いを示すそうです。最初は自己防衛の為に使われていた皮膚感覚は社会生活を維持するための感覚としても発展していったのです。 

無意識に受け取る情報が心に影響を及ぼす
新しいシャツに袖を通して気持ちがシャキッとしたり、料理に使おうとしていた食材が傷んでいたのを知らずにつかんでしまった時の不快感など、モノに触れた時、何らかの感情が沸き起こるということを私達は日常的に経験しています。しかし、受け取っている皮膚からの情報が、無意識下で心に影響を与えていることもあるようなのです。
アメリカの行動経済学者ローレンス・ウィリアムズらは、実験で対象者にホットコーヒーかアイスコーヒーのいずれかを持って、存在しない架空の人物の特徴が記載された文章を読んでもらい、その人物の印象を訊ねました。するとホットコーヒーを持った方は人物の人格を"親切""寛容"と判断したそうです。さらに実験のお礼として「友人へのギフト」と「自分用の品」のどちらかを選んでもらうと、手を温めた人は前者を選ぶことが多かったといいます。その後の実験では、皮膚を温めることで人との対人距離が近くなる・人を信頼しやすくなるなどの結果も出ました。
そのほかにも「硬い」「柔らかい」や「ザラザラ」「ツルツル」などの手触りも知らず知らずのうちに心理的な影響を与えているということも分かってきています。

触覚が心理に与える影響を利用する
触れる事で安心感を得るなどゼロからプラスに働く作用もあれば、うまく利用するとマイナスからゼロに引き戻してくれる作用もあることが分かっています。
ミシガン大学の心理学者スパイク・リーは次のような実験を行いました。まず実験参加者全員に次の物語を読んでもらいました。 
「あなたは法律事務所で同僚と能力を競い合っています。あなたは同僚が失くしたとても大事な資料を発見したとします。あなたがその資料を同僚に返した場合、それは同僚の活動に大きく貢献しますが、逆にあなたの行動に傷をつけます。」
ここで参加者を2つのグループに分け、同僚に「書類は見つからなかった(不道徳な行為)」と、「書類が見つかった(道徳的行為)」とそれぞれ伝える群に分けて、さらに伝える際に口頭で伝える群と、手で文章を打ってメールで伝える群とに分けました。
それを伝えた後、「口内洗浄剤」や「手の除菌ローション」を使いたいという欲求を測定した結果、不道徳なメッセージを「口で」伝えた被験者は、「口内洗浄剤」への欲求が高まり、それを「手で」伝えた人は「手の除菌ローション」への欲求が高まったのです。一方、道徳的なメッセージを伝えた参加者はそのような傾向はみられませんでした。
人は不道徳な行為をすると、罪を犯した体の部分をキレイにしたいという潜在的な欲求がかきたてられるのがわかります。その後の研究で、これは特に道徳的な純粋さに限られた話ではなく一般的に感じる嫌悪感(仕事の失敗や失恋など)についても同じことが言えることが分かっています。
一日の終わりにお風呂で全身を洗うことはそのような意味でもリフレッシュ効果があると言えます。また、神社でも参拝する際は柄杓で手を洗い、口をゆすぎます。嫌悪感を払ってまっさらな心持ちで前向きに願掛けするというのは、先人が培った理にかなった行為なのかもしれません。

おわりに
触覚は感覚器として非常に広範囲に外部から情報を受け取ります。受け取る情報の中には無意識からのものも多く含まれており、それは心に影響して無自覚的にストレスをためてしまっているかもしれません。
一方で皮膚への刺激を利用した治療の最たるものの一つとして鍼灸があります。現代社会で不足している触覚刺激を補うツールとして、鍼灸治療を利用されることをお薦めします。

引用文献
・岩堀修明:図解 感覚器の進化.講談社:2011
・山口創著:手の治癒力.草思社.2012
・山口創著:からだの無意識の治癒力.さくら舎:2019
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2020年8月 1日 土曜日

お天気と体の関係(4)自律神経を整えるには? 東洋医学研究所®グループ  かどむら鍼灸院 院長 角村 幸治 令和2年8月1日号

8月は夏真っ盛り。こよみの上では8月8日に立秋を迎えますが、まだまだ冷房や暑さ対策が必要な季節です。冷房は暑い時につけると気持ちのいいものですが、外気温との差が激しくなるため、自律神経が乱れやすく注意が必要です。
また、今年はコロナ禍によるストレス、外出自粛による運動不足や精神的に不安定で体調を崩し気味の方も多いのではないでしょうか。
前回のコラムでは、「激しい寒暖差は自律神経失調を起こしやすい」ことをお伝えしました。今回は、自律神経を崩してしまった場合、どのような対処が必要かを少し話したいと思います。

自律神経失調症と症状
自律神経失調症とは、ストレスなどが原因で自律神経である交感神経と副交感神経のバランスが崩れてでる様々な症状をいいます。
自律神経は、交感神経と副交感神経に分かれています。交感神経は主に体を動かすときに働き、副交感神経は体を休めるときに働きます。交感神経と副交感神経はお互いにバランスを取りながら体を調節していますが、このバランスが崩れることがあります。その原因としては、不規則な生活、ストレス、睡眠不足、更年期におけるホルモンの乱れなどが挙げられます。
症状としてだるい、眠れない、疲れがとれない、頭痛、動悸や息切れ、めまい、のぼせ、立ちくらみ、下痢や便秘、冷えなどがあり、人によって様々で多岐にわたります。
精神的症状として、情緒不安定、イライラや不安感、うつなどの症状が現れることもあります。

適度な運動で自律神経を整える
日中は体を動かすために交感神経が優位になり、夜は体を休息させるために副交感神経が優位になります。理想は、日中に体を動かして、しっかりと交感神経を高め、夜はリラックスしてしっかりと副交感神経を高めることです。
散歩などの有酸素運動は、朝、交感神経のスイッチを入れるのに適しているので習慣的に行うことをお勧めします。ゆっくりと呼吸をしながら行うストレッチは、副交感神経を優位にして、心身をリラックスモードに導きます。
日々習慣的に運動をすることで、自律神経が乱れにくい体を作ることができ、乱れた自律神経を元に戻すことをしてくれます。

睡眠の質を高めて自律神経を整える
睡眠は脳が活動しているレム睡眠と、脳の活動が低下する深い睡眠状態といわれるノンレム睡眠に分けられます。良い睡眠をしっかりととることで、疲れた体と心をしっかりと回復させて、自律神経を整えることができます。
良い睡眠をとるコツは一番深いノンレム睡眠になる最初の90分をしっかりと深い眠りにすることです。
良い睡眠をとるためには、入眠前にリラックスして、強い刺激を受けないことが大切です。寝る前のスマホやゲームは強い光で交感神経を高めてしまいます。早めにやめて、自分がリラックスして、ゆっくりした気持ちになれることをすることをお勧めします。
好きなこと、リラックスできることは人それぞれですが、お勧めは、スマホをする代わりに好きな音楽を聞くことや、好きな本を読む、好きなアロマを焚くなどです。

自分なりのリラックス法で自律神経を整える
コロナ禍など、世の中、いろいろなことが起こり、ストレスなどで自律神経が乱れがちです。ストレスなどで交感神経が過剰になる前に、普段から自分に合ったリラックス法をすると自律神経が乱れにくい体になります。散歩などの有酸素運動の他、ヨガや呼吸法、瞑想など、自分の好きなことをみつけ、リラックス時間を1日のうち、少しでももつことをお勧めします。

鍼治療は自律神経を整える
東洋医学研究所®所長黒野保三先生の長年の研究により、生体制御療法の鍼治療により自律神経が整うことがわかってきています。いろいろやってみてもなかなかうまくいかない方、自律神経を整えたいと思う方は鍼治療を受けてみてはいかがでしょうか。

引用・参考文献
・Kurono Y, Minagawa M, Ishigami T, Yamada A, Kakamu T, Hayano J.
Acupuncture to Danzhong but not to Zhongting increases the cardiac vagal component of heart rate variability. Autonomic Neuroscience:26(1・2).2011:116-20.
・Tarzan.自律神経を整える.2020.
・https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-082.html
(厚生労働省.E-ヘルスネット.2020.6.8)
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2020年7月 1日 水曜日

アレルギーマーチ(2)食物アレルギー 東洋医学研究所® 主任 橋本 高史 令和2年7月1日号

はじめに
近年ますます増加傾向にあるアレルギー疾患は、低年齢児にも及んでいます。最も低年齢で起こりやすいとされる食物アレルギーは皮膚や呼吸器、消化器や全身にアレルギー症状が出やすい疾患でもあります。
今回は、アトピー素因を持って生まれた子供が成長と共に臓器・病態を変えながら様々なアレルギー疾患を発症していく「アレルギーマーチ」の中の「食物アレルギー」についてお話させて頂きます。

アレルギーマーチとは
アレルギーマーチとはアトピー素因のある小児にアレルギー疾患が次から次へと発症してしまい、年齢とともに、症状が変化していくことを言います。
実際には、親から遺伝によってアレルギーになりやすい体質を受け継いだ子供が、食物アレルギーから発症し、アトピー性皮膚炎→気管支喘息→アレルギー性鼻炎・結膜炎と、乳児期から学童期へと年齢とともに疾患が変化していく様子を行進(マーチ)に例えて呼んだものです。

食物アレルギーの原因食物と主症状
食物アレルギーの原因となる食べ物は、乳児では鶏卵が最も多く、牛乳、小麦の3つが三大原因と言われています。食生活の幅が広がる幼児期以降では、魚卵(いくらなど)やピーナッツ、果物、そば、甲殻類(海老や蟹)などの食物アレルギーも報告されており、原因食物の種類は多岐にわたります。
元々アトピー素因のある小児が原因となる食べ物を食べて主に2時間以内にかゆみ、蕁麻疹といった皮膚症状、目・鼻・口に現れる粘膜症状、咳や喉の異常等の呼吸器症状、下痢・嘔吐といった消化器症状、場合によっては全身性のアナフィラキシーショック(血圧低下や意識障害)が現れるものです(表)。

表 食物アレルギーが原因で起こる症状

見逃されやすい食物
見逃されやすい食物として、母乳が挙げられます。新生児で起こりやすい疾患であり、新生児・乳児消化管アレルギーと呼ばれています。新生児・乳児消化管アレルギーは、最近次第に認識が広まりつつある疾患です。ミルクアレルギーとも呼ばれますが、ミルクアレルギーは成分により牛乳アレルギー、母乳アレルギー、大豆乳アレルギーに分けることができます。牛乳アレルギーが最も多く、ミルクアレルギーの大半を占めています。
主症状が、嘔吐、血便、下痢などの消化管症状で、発症時期が早いことも特徴であり、牛乳アレルギーの場合はほとんどが新生児期に発症します。これまでに知られているアレルギー疾患の中では最も早く発生するものです。そして蕁麻疹などの皮膚症状はみられないのも特徴です。
 小さい子をお持ちの親御さんは知っておくべき疾患であると思います。

食物アレルギーの対策
基本的には原因食物を回避することが治療の中心になります。症状が軽微でも繰り返しの摂取で重篤になることもあるので注意が必要です。
また基礎体力をつけるべく運動を心がけて下さい。健康的な食生活を心がけること、しっかりと睡眠をとることも重要です。
しかし、アレルギー疾患の発症にはさまざまな要因があり、生活の中からそのすべてをとり除くことは非常に困難です。またアレルギー疾患の発症には小児自身の心の要因も関係していることから、アレルゲンの除去は必ずしも発症予防につながるわけではありません。アレルギー疾患の発症にできるだけ早く気づくことと、適切な治療と管理により症状をコントロールしていく事が重要です。
また一方では、心身が大きく変化することで、成長によってアレルギー疾患が自然寛解することもありますし、新生児の消化器症状は1歳頃までに耐性を獲得する例も多くあります。

アレルギー疾患と小児に対する鍼治療
東洋医学研究所
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2020年6月 1日 月曜日

末梢性筋疲労はなぜ起こるのか 東洋医学研究所®グループ  二葉鍼灸療院 院長 田中 良和

はじめに
私たちの身体は大小約600もの筋肉により構成されています。その種類は①心臓を動かす筋肉(心筋)②内臓や血管を動かす筋肉(平滑筋)③体を動かす筋肉(骨格筋)の3種類です。関節等の身体運動に関わる筋肉は骨格筋です。その数約400の筋肉で滑らかな身体動作を実現させています。
「疲労」についてみていくと、厳密には「疲労」についての分類はできませんが、筋内でのph低下やグリコーゲン等の貯蔵エネルギーの枯渇が起ると運動が制限され疲労状態となります。この筋肉での疲労を「末梢性疲労」と言います。また、筋肉が働くには神経の刺激が必要となります。その指令は脳の運動野という部分から出て、脊髄を通って筋肉へと神経が繋がっていきます。これらの活動が制限されて運動能力が低下する状態を「中枢性疲労」と言います。
今回は、骨格筋内で起こる「末梢性疲労」についてみていきたいと思います。
ちなみに、筋疲労の定義は、「運動によって引き起こされる筋力または筋パワーを生み出す能力の低下」となります。

筋肉を動かすエネルギー
疲労を知る上でもっとも重要なのは、そのエネルギー供給システムです。これは筋細胞だけではなく、身体のあらゆる細胞が同じシステムですが、身体活動に大きな比重を持つ筋肉ではそのエネルギー産生量が多くなります。
運動を行う時は筋肉内の3機能が連携して運動が行われます。身体を動かすエネルギーはATPという物質(エネルギー通貨)を分解することで得られます。
①ATP-CP系
10秒以内の瞬間的動きに対応するには、筋肉内に蓄えてあるATPを分解しエネルギーを産生します。その代謝産物にCP(クレアチンリン酸)がリン酸を与えることで再びATPを合成しエネルギーを産生するという仕組みです。枯渇したATPは後に出てくる電子伝達系のもと再貯蔵されます。
②解糖系(乳酸系)
30秒から60秒ほどの急激に筋パワーを発揮しなければならない時には、筋内のグリコーゲンを分解し、その栄養を利用してエネルギーを産生します。その際、代謝産物として産生されるのが乳酸です。
筋疲労には、この筋内に含まれているグリコーゲン量が重要となります。また前回のコラムで紹介したように、近年の研究では、乳酸は疲労には関与しているが疲労物質でないことが分かってきています。乳酸は、再び骨格筋や心臓、脳でエネルギーとして再利用されるのです。
③電子伝達系(呼吸鎖)
長距離走などの持続運動においては、筋内のグリコーゲンを可能な限り保持したままエネルギー産生する必要があります。この時に主に使用される栄養素が脂質です。この無尽蔵なエネルギーを産生する場所はミトコンドリアという細胞小器官です。ここで解糖系や脂質における代謝生成物や、時にはタンパク質を利用しながら大量のエネルギーを産生します。
脂質を利用するシステムには酸素が必要となります。それが故にこのシステムは有酸素系とも言われます。前記の2つのエネルギー産生システムを、これと比較して無酸素系と言います。
また、このエネルギー産生では、全てがエネルギーになるわけではなく、半分以上は熱に変換されます。筋肉の量が多ければ熱の産生が多くなります。体温維持のため重要となることが分かると思います。
このエネルギーシステムでは、「疲労」に対して重要なカギを握る「活性酸素種(以下ROS)」や「フリーラジカル」が生成されます。体内に酸素を取り込み、生命活動を行う全ての動物に共通した宿命です。食事をしても、運動をしても、勉強しても、全てROS等が生成されます。
ROS等は非常に反応性の高い物質です。その量が身体で対応できる範囲内であれば、免疫反応や細胞内のシグナル伝達など、生体恒常性維持(ホメオスターシス)が重要な働きを行います。しかし、これが度を超すと、脂質、タンパク質および核酸などの生体分子を酸化傷害するという負の作用も存在します。
しかし、人間の身体はうまくできており、それらを打ち消してくれる機能も備えています。スーパーオキシムディアムターゼ等の酵素がそれにあたり、また、酵素以外でもビタミンEやC、還元型グルタチオンが抗酸化防御機構として働きます。
このROSによる酸化ストレスの慢性化が、糖尿病、がん、循環器疾患、神経障害などの疾患の発症、およびその進行に深く関わっており、老化過程への関与も示唆されています。

ROSの疲労に関する働き
近年の研究では、ROS等を除去する酵素群の機能を高めると運動における持久的パフォーマンスの向上や筋疲労が改善する報告があり、全身的な筋疲労にROS等が関与していることも示唆されています。
また、ROS等は細胞内での脂質代謝を抑制する働きも報告されており、結果、筋グリコーゲン利用率を高めて枯渇を早め疲労しやすい状況をつくっているのではないかとの報告あります。

まとめ
ここまでの話をまとめると、酸素を摂取してエネルギーをつくる私たち人間の身体にはROS等が必ず産生されます。運動等により、それらが過剰になることが末梢性筋疲労の大きな要因となっているということです。
「適度な運動」を行うことは生活習慣病や老化の予防に役立つのですが、その「適度」は各個人の筋力や運動能力、運動経験によって違います。地道に自分の可能な範囲で運動することで、自分自身の運動機能の「適度」を見つけ、それを楽しく継続していくことが、身体(筋肉)にとって最適な状態のではないでしょうか。

参考文献
・河村 拓史:酸化ストレスに及ぼす疲労困憊運動と水素摂取の影響.
 早稲田大学審査学位論文 博士(スポーツ科学).2018 年1月
・松浦 亮太:筋疲労を再定義する 北海道大学大学院教育学研究院紀要
第125号90-109.2016年3月
・石井 秀明:最近の疲労研究について.西田研究室 定例勉強会.2011年5月
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