研究業績
2012年8月17日 金曜日
生体制御療法を使用した鍼治療の研究1・・・健康チェック表とは
1)不定愁訴症候群に対する鍼灸治療の検討
近年、社会構成が複雑多岐になり、現代はストレス社会ともいわれるようになってきました。そして、いわゆる不定愁訴を訴える人が多くなり、これらの人々が鍼灸院を訪れるケースが増加しつつあります。
しかし、いわゆる不定愁訴を訴える患者に対する鍼灸治療の有効性を定量的に見出すことは非常に困難であるのが現状であります。
そこで、黒野は
①鍼灸院を訪れる不定愁訴症候群患者が増加していること
②鍼灸師が独自に研究ができること
③鍼灸師は誰でも研究活動に参加できること
④治療に関しては近代医学の盲点であり、鍼灸治療が最も得意とする分野であること
⑤病理学的徴候の有無にかかわらず不定愁訴を有する患者が多数いること
を踏まえて、不定愁訴症候群に対する鍼灸治療の有効性を実証医学的に見出す目的で、昭和61年10月26日、(社)全日本鍼灸学会研究委員会に不定愁訴班を新設し、研究活動を開始しました。
2)健康チェック表について
この健康チェック表を作成するにあたり、最初に、黒野等は、現在広く使用されている健康調査表の検討から研究を始めました。
CMI(コーネル大学健康調査表)に着目し、不定愁訴症候群患者に対し、生体制御療法としての鍼灸治療の有効性を客観的に見出すことを試みましたが、①患者の中にCMI記載中、50項目前後で記載を中止するものや、後半の記載がかなり曖昧であること(初回と次回の記載にかけ離れた記載がなされている)、②項目数が多く患者の負担が大きく、記載された結果が不安定である、③類似の項目が多くある等の問題に気づき、それらを改善し鍼灸診療の現場で重症度判定と効果判定ができ、鍼灸診療の効果を定量的に見出せる健康チェック表(記載項目50項目を限度とする)を作成することにしました。
表1にあります調査表を総合的に検討し、健康チェック表を作成しました。この健康チェック表の項目のうち1~12までが自律神経失調性項目、13~24までが神経症性項目、25~36までがうつ状態性項目、37~50までがその他の不定愁訴項目に分類できるように作成しました。
作成した健康チェック表は各質問に対して、常に症状がある場合には2点、時々症状がある場合には1点を記入していただきます。したがって、満点が100点となります。この健康チェック表に記載された点数の合計点を不定愁訴指数ということにしました。
この健康チェック表は、再現性・妥当性・各項目別の相関関係・項目数の必要性について医学統計学を行って検討した結果、いずれにおいても妥当であることが明らかとなったものであります。
<表1>
3)重症度判定基準
健康人と思われる人の不定愁訴を調べる目的で、全国の鍼灸学校学生700名に三ヶ月間健康チェック表の記載を依頼しました。三ヶ月間、健康チェック表の記載を完了した459名を対象に健康チェック表の点数を調べました結果、健康人においても5.4点の愁訴を有することがわかりました。したがって、重症度判定の下限点数は6点以上と定める必要が生じました。
症例集積で51点以上の症例は9例みられましたが、そのうち7例が関西労災式うつ状態調査表の判定で、うつ病に相当する患者でありました関係から、50点を上限とし、51点以上は不定愁訴症候群から除外することとしました。
<表2>
4)効果判定基準
効果判定は1クールを7回の鍼灸治療と定め、3クール終了後に判定しました。
効果判定基準は、著効・有効・比較的有効・やや有効・無効の五種類に分類しました。
症例集積で51点以上の症例は9例みられましたが、そのうち7例が関西労災式うつ状態調査表の判定で、うつ病に相当する患者でありました関係から、50点を上限とし、51点以上は不定愁訴症候群から除外することとしました。
<表3>
健康チェック表、重症度判定基準、効果判定基準を使用して、多くの研究を積み重ね生体制御療法の有効性を(社)全日本鍼灸学会および世界鍼灸学会連合会学術大会に報告してきました。
以上のことにより、この健康チェック表を用いることによって、患者の状態を把握する一手段を提供できたのみでなく、鍼灸診療の効果を定量的に見出す指標となりえたことから、東洋医学研究所ョでは、すべての患者さんに対してスクリーニングの指標することを決めました。
近年、社会構成が複雑多岐になり、現代はストレス社会ともいわれるようになってきました。そして、いわゆる不定愁訴を訴える人が多くなり、これらの人々が鍼灸院を訪れるケースが増加しつつあります。
しかし、いわゆる不定愁訴を訴える患者に対する鍼灸治療の有効性を定量的に見出すことは非常に困難であるのが現状であります。
そこで、黒野は
①鍼灸院を訪れる不定愁訴症候群患者が増加していること
②鍼灸師が独自に研究ができること
③鍼灸師は誰でも研究活動に参加できること
④治療に関しては近代医学の盲点であり、鍼灸治療が最も得意とする分野であること
⑤病理学的徴候の有無にかかわらず不定愁訴を有する患者が多数いること
を踏まえて、不定愁訴症候群に対する鍼灸治療の有効性を実証医学的に見出す目的で、昭和61年10月26日、(社)全日本鍼灸学会研究委員会に不定愁訴班を新設し、研究活動を開始しました。
2)健康チェック表について
この健康チェック表を作成するにあたり、最初に、黒野等は、現在広く使用されている健康調査表の検討から研究を始めました。
CMI(コーネル大学健康調査表)に着目し、不定愁訴症候群患者に対し、生体制御療法としての鍼灸治療の有効性を客観的に見出すことを試みましたが、①患者の中にCMI記載中、50項目前後で記載を中止するものや、後半の記載がかなり曖昧であること(初回と次回の記載にかけ離れた記載がなされている)、②項目数が多く患者の負担が大きく、記載された結果が不安定である、③類似の項目が多くある等の問題に気づき、それらを改善し鍼灸診療の現場で重症度判定と効果判定ができ、鍼灸診療の効果を定量的に見出せる健康チェック表(記載項目50項目を限度とする)を作成することにしました。
表1にあります調査表を総合的に検討し、健康チェック表を作成しました。この健康チェック表の項目のうち1~12までが自律神経失調性項目、13~24までが神経症性項目、25~36までがうつ状態性項目、37~50までがその他の不定愁訴項目に分類できるように作成しました。
作成した健康チェック表は各質問に対して、常に症状がある場合には2点、時々症状がある場合には1点を記入していただきます。したがって、満点が100点となります。この健康チェック表に記載された点数の合計点を不定愁訴指数ということにしました。
この健康チェック表は、再現性・妥当性・各項目別の相関関係・項目数の必要性について医学統計学を行って検討した結果、いずれにおいても妥当であることが明らかとなったものであります。
<表1>
1.無徴候.有訴群患者の自覚症状 | ・・・ | 43項目 |
2.CMIの精神症状の質問項目 | ・・・ | 56項目 |
3.CMI阿部変法・自律神経失調性愁訴とした質問項目 | ・・・ | 43項目 |
4.CMI阿部変法・精神性愁訴とした質問項目 | ・・・ | 51項目 |
5.CMI馬島変法・身体症状に関する質問項目 | ・・・ | 49項目 |
6.CMI馬島変法・精神症状に関する質問項目 | ・・・ | 51項目 |
7.関西労西災式うつ状態調査表 | ・・・ | 30項目 |
8. SRQ-D(抑うつ尺度) | ・・・ | 18項目 |
9. SDS(自己評価式抑うつ尺度) | ・・・ | 20項目 |
合 計 | 361項目 |
3)重症度判定基準
健康人と思われる人の不定愁訴を調べる目的で、全国の鍼灸学校学生700名に三ヶ月間健康チェック表の記載を依頼しました。三ヶ月間、健康チェック表の記載を完了した459名を対象に健康チェック表の点数を調べました結果、健康人においても5.4点の愁訴を有することがわかりました。したがって、重症度判定の下限点数は6点以上と定める必要が生じました。
症例集積で51点以上の症例は9例みられましたが、そのうち7例が関西労災式うつ状態調査表の判定で、うつ病に相当する患者でありました関係から、50点を上限とし、51点以上は不定愁訴症候群から除外することとしました。
<表2>
軽 症 | (6~15点以下) |
中等症 | (16~30点) |
重 症 | (31~50点) |
4)効果判定基準
効果判定は1クールを7回の鍼灸治療と定め、3クール終了後に判定しました。
効果判定基準は、著効・有効・比較的有効・やや有効・無効の五種類に分類しました。
症例集積で51点以上の症例は9例みられましたが、そのうち7例が関西労災式うつ状態調査表の判定で、うつ病に相当する患者でありました関係から、50点を上限とし、51点以上は不定愁訴症候群から除外することとしました。
<表3>
著効 | 不定愁訴指数減少率が70%以上のもの、及び1クール以内で、不定愁訴指数減少率が40%以上のもの |
有効 | 不定愁訴指数減少率が40%以上70%未満のもの、及び1クール以内で、不定愁訴指数減少率が20%以上40%未満のもの |
比較的有効 | 不定愁訴指数減少率が20%以上40%未満のもの |
やや有効 | 不定愁訴指数減少率が10%以上20%未満のもの |
無効 | 不定愁訴指数減少率が10%未満、及び不定愁訴指数が不変のもの |
健康チェック表、重症度判定基準、効果判定基準を使用して、多くの研究を積み重ね生体制御療法の有効性を(社)全日本鍼灸学会および世界鍼灸学会連合会学術大会に報告してきました。
以上のことにより、この健康チェック表を用いることによって、患者の状態を把握する一手段を提供できたのみでなく、鍼灸診療の効果を定量的に見出す指標となりえたことから、東洋医学研究所ョでは、すべての患者さんに対してスクリーニングの指標することを決めました。
2012年8月17日 金曜日
局所療法としての鍼治療の研究・・・疼痛疾患に対する鍼治療
鍼治療では生体制御療法と並び局所療法も有効な治療法であります。特に症状に対する局所療法は疼痛疾患(痛みを伴う疾患)に多用されるもので、1回の鍼治療で効果をあげる事ができる場合もあります。現在、臨床で簡便に測定・評価する痛みのスケールには様々なものがありますが、これはあくまでも個人的で主観的な感覚をスケールに表現するものであるため、痛みの程度を正確に測定するには大変難しいものがあります。
先に述べた鍼と超音波の併用治療の文献では痛みの程度を測定していませんでした。30年以上前の文献としては効果判定があり、大変優れたものでありました。そこで現在、腰痛に対する鍼治療の実証医学的研究の試みに取り組んでおり、ここでは痛みの程度を評価するスケールとしてVAS(Visual Analogue Scale)と腰痛の程度を評価するスケールとして日本整形外科学会腰痛疾患治療成績判定基準(JOAスコア)を使用して検討していますので途中ですが紹介します。
平成12年5月より平成13年7月の期間に東洋医学研究所ョと東洋医学研究所ョグループの7治療院に来院した初診患者のうち、主訴が腰痛であった患者41例を対象とした。この患者に対し鍼治療(局所療法:腎兪と委中の低周波痛電置鍼術)を行いVASとJOAスコアを使用して経過を観察し、初診時と最終治療終了時との差を医学統計処理を行い検討しました。
その結果JOAスコアによる重症度判定では初診時に軽症13例(32%)、中等症25例(61%)、重症3例(7%)であったものが、最終時には軽症28例(78%)、中等症8例(22%)、重症0例となりました。また、効果判定では著効5例(12%)、有効15例(37%)、やや有効18例(44%)、無効3例(7%)となり、やや有効以上を効果ありとすると93%に効果があったことがわかります。JOAスコア点数の推移では初診時平均17.9点であったものが最終時には22.8点となり、有意な改善が認められました。VASにおいても初診時治療前と初診時治療後では有意な差が認められました。また、初診時治療前と最終時治療前でも有意な差が認められました。
痛みを伴う疾患は多数あり、その中で最も多いものが腰痛であります。今回は腰痛に対する鍼治療の有効性を実証医学研究に基づいた手法により検討し、その有効性を見い出すことができました。
今後は膝痛や頚肩腕痛等の運動器疾患はもちろんのこと、内科系からくる痛みについての検討も含めて行う予定であります。
先に述べた鍼と超音波の併用治療の文献では痛みの程度を測定していませんでした。30年以上前の文献としては効果判定があり、大変優れたものでありました。そこで現在、腰痛に対する鍼治療の実証医学的研究の試みに取り組んでおり、ここでは痛みの程度を評価するスケールとしてVAS(Visual Analogue Scale)と腰痛の程度を評価するスケールとして日本整形外科学会腰痛疾患治療成績判定基準(JOAスコア)を使用して検討していますので途中ですが紹介します。
平成12年5月より平成13年7月の期間に東洋医学研究所ョと東洋医学研究所ョグループの7治療院に来院した初診患者のうち、主訴が腰痛であった患者41例を対象とした。この患者に対し鍼治療(局所療法:腎兪と委中の低周波痛電置鍼術)を行いVASとJOAスコアを使用して経過を観察し、初診時と最終治療終了時との差を医学統計処理を行い検討しました。
その結果JOAスコアによる重症度判定では初診時に軽症13例(32%)、中等症25例(61%)、重症3例(7%)であったものが、最終時には軽症28例(78%)、中等症8例(22%)、重症0例となりました。また、効果判定では著効5例(12%)、有効15例(37%)、やや有効18例(44%)、無効3例(7%)となり、やや有効以上を効果ありとすると93%に効果があったことがわかります。JOAスコア点数の推移では初診時平均17.9点であったものが最終時には22.8点となり、有意な改善が認められました。VASにおいても初診時治療前と初診時治療後では有意な差が認められました。また、初診時治療前と最終時治療前でも有意な差が認められました。
痛みを伴う疾患は多数あり、その中で最も多いものが腰痛であります。今回は腰痛に対する鍼治療の有効性を実証医学研究に基づいた手法により検討し、その有効性を見い出すことができました。
今後は膝痛や頚肩腕痛等の運動器疾患はもちろんのこと、内科系からくる痛みについての検討も含めて行う予定であります。
2012年8月17日 金曜日
生体制御療法を使用した鍼治療の研究5・・・未病治に対する鍼治療
鍼治療による「健康・遅老」の健康管理および老化防止と生体防御機構の現象を基礎・臨床にわたり研究しました。
1.基礎研究
マウスの寿命は2~3年といわれており、月齢とともに組織・器官に老化による変化が現れることが知られています。2年間にわたって鍼治療を行ったマウスと何も治療しなかったマウスの膵組織、肝組織を摂取し、電子顕微鏡を用い比較観察を行いました。
月齢と共に膵外分泌細胞において、動物が若い場合には、細胞質内に限界膜のない結晶構造が出現しますが、この結晶構造が老化によって幼若化し繊維構造に変化しましたが、鍼治療を施したものにはこの繊維構造が観察されませんでした。
同様に膵島細胞の大食細胞も鍼治療によって活発化して貪食能が増加し、異物を多量に貪食して肥大します。また、大食細胞と脂質貯蔵細胞とが互いに接近して隣接する所見が認められました。
以上の組織像所見からも推測できるように死亡率においても鍼治療群が低いことが確認されました。
2.臨床研究
①臨床鍼灸現場の実態
臨床鍼灸の現場において、長期に鍼灸治療を受療した患者から身体に様々な効果的変化があったことについて、種々報告を受けることがしばしばあります。
例えば東洋医学研究所ョをはじめ6治療院で、長期間鍼灸治療を受療した患者の自覚所見と、その患者に対する第3者の評価がどのような結果を示したかについて調査検討しました。
対象は、平成元年4月1日から平成3年3月31日までの2年間に健康管理または不定愁訴を有する患者で、3ヶ月以内に21回以上継続して生体制御療法としての鍼治療を受けた患者414例中5例以上同一解答のあった277例と、そのうち第3者から2例以上同一評価を受けた患者77例について調査しました。
調査をしたところ表1・2の結果が得られました。この調査結果をみると生体制御療法を長期間受療した患者がいかに生体に良い影響を与えているかがうかがい知れるのであります。
表2 長期治療継続患者に対する第3者の評価
1.基礎研究
マウスの寿命は2~3年といわれており、月齢とともに組織・器官に老化による変化が現れることが知られています。2年間にわたって鍼治療を行ったマウスと何も治療しなかったマウスの膵組織、肝組織を摂取し、電子顕微鏡を用い比較観察を行いました。
月齢と共に膵外分泌細胞において、動物が若い場合には、細胞質内に限界膜のない結晶構造が出現しますが、この結晶構造が老化によって幼若化し繊維構造に変化しましたが、鍼治療を施したものにはこの繊維構造が観察されませんでした。
同様に膵島細胞の大食細胞も鍼治療によって活発化して貪食能が増加し、異物を多量に貪食して肥大します。また、大食細胞と脂質貯蔵細胞とが互いに接近して隣接する所見が認められました。
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対照群 (鍼治療を施さなかったグループ) マウスの膵外分泌細胞の結晶が繊維化(矢印)している。11,000倍 |
鍼治療群のマウスの膵外分泌細胞内の結晶構造(矢印)15,000倍 通常は細胞質内の結晶は老化によって繊維成分に変化するが、鍼治療によって再び結晶構造が見られるようになった。 |
鍼治療群のマウスの膵臓の間質結合組織内・外分泌部に出現した大食細胞(MP)とリンパ球(L)との接触。4,000倍 大食細胞も鍼治療によって活発化して貪食能が増加し、異物を多量に貪食して肥大する。 大食細胞と脂質貯蔵細胞とが互いに接近して接触する所見が見られた。 |
肝臓の組織所見において対照群ではグリソン鞘周辺部にリンパ球の浸潤あるいは他の間質細胞などの浸潤が認められ、肝細胞索は中等度に乱れて肝細胞の部分壊死が認められました。それに対して鍼治療群では対照群に見られる老化による組織の変化はあまり認められませんでした。また、間質への細胞浸潤は少なく、肝細胞索は比較的よく保たれていました。
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鍼治療を施さなかったマウス | 長期に鍼治療を施したマウス |
①臨床鍼灸現場の実態
臨床鍼灸の現場において、長期に鍼灸治療を受療した患者から身体に様々な効果的変化があったことについて、種々報告を受けることがしばしばあります。
例えば東洋医学研究所ョをはじめ6治療院で、長期間鍼灸治療を受療した患者の自覚所見と、その患者に対する第3者の評価がどのような結果を示したかについて調査検討しました。
対象は、平成元年4月1日から平成3年3月31日までの2年間に健康管理または不定愁訴を有する患者で、3ヶ月以内に21回以上継続して生体制御療法としての鍼治療を受けた患者414例中5例以上同一解答のあった277例と、そのうち第3者から2例以上同一評価を受けた患者77例について調査しました。
調査をしたところ表1・2の結果が得られました。この調査結果をみると生体制御療法を長期間受療した患者がいかに生体に良い影響を与えているかがうかがい知れるのであります。
表1 長期鍼治療継続患者の自覚所見
1.健康に自身がつき身体が軽く、調子が良い | 21 |
2.食欲が出てきた。食事がおいしくなった | 1 |
3.やる気が出て、よく仕事ができるようになった | 17 |
4.疲れにくくなり、寝起きが良くなった | 16 |
5.よく眠れる。寝つきが良く、ぐっすり眠れる | 15 |
6.目が疲れにくくなり、良く見えるようになった | 12 |
7.肩こりが楽になった | 12 |
8.膝の痛みが楽である | 11 |
9.足の運びが良く、さっさと歩ける | 11 |
10.風邪をひきにくくなり、ひいてもすぐ治る | 10 |
11.生理が順調になった。楽に動ける | 9 |
12.胃の具合が良くなった | 8 |
13.気持ちが明るくなり楽しくなった | 6 |
14.皮膚がうるおった感じがする | 6 |
15.お通じ(下痢・便秘)が良くなった | 6 |
16.頭痛がしなくなった | 6 |
表2 長期治療継続患者に対する第3者の評価
1.元気になったと言われた | 8 |
2.表情が明るく生き生きしてきたと言われた | 7 |
3.身体や歩き方がしっかりしてきたと言われた | 6 |
4.若返ったと言われた | 5 |
5.顔色が良くなったと言われた | 5 |
6.身体が細くなったと言われた | 3 |
7.肥えてきたと言われた | 3 |
8.顔や肌に艶が出てきたと言われた | 3 |
9.声がしっかりしてきたと言われた | 3 |
10.よく食べるようになったと言われた | 2 |
11.体力がついたと言われた | 2 |
12.動作が早くなったと言われた | 2 |
13.最近やる気が出てきたと言われた | 2 |
14.髪の毛の艶が良くなった。黒くなったと言われた | 2 |
2012年8月17日 金曜日
生体制御療法を使用した鍼治療の研究4・・・高血圧に対する鍼治療
高血圧に対する鍼治療として足三里穴を使用する頻度が多い。そこでこの足三里穴刺鍼の血圧に及ぼす影響を臨床的に研究しました。
平成9年6月21日から平成10年8月30日までを募集期間とし、この期間中に最低8回以上鍼治療を行った患者を対象として多施設ランダム化臨床比較試験を行ったので報告します。
東洋医学研究所ョと東洋医学研究所ョグループ10治療院に来院した初診患者に血圧測定を行い、高血圧状態と判定した患者に対して全例に生体制御療法を行いました。今回は収縮期血圧140mmHg 以上かつ拡張期血圧90 mmHg 以上の症例に対し、封筒法により以下のように分類し、血圧値の推移を比較検討しました。
A群:生体制御療法+主訴に対する局所療法+足三里穴に対する単刺術及び円皮針
B群:生体制御療法+主訴に対する局所療法
結果は収縮期血圧値において、 A群では有意な変動は認められませんでしたがB群では有意な変動が認められました。また、両群間での差は認められませんでした。拡張期血圧値において、 A群B群共に有意な変動が認められましたが、両群間では有意な差は認められませんでした。
このことから、足三里穴に対する血圧値に及ぼす影響は認められなかったが、両群の血圧値の有意な変動は生体制御療法によるところが大きいものと思われます。
以下、高血圧症患者に対する鍼治療の一症例を紹介します。
【 症 例 】
63歳女性 主訴:右肩が痛む
10年以上前に集団検診で血圧が高いといわれ、近所の内科医院を受診し高血圧症といわれた。この時から降圧剤、尿酸合成阻害薬の服用をはじめた。 1ヶ月前より右肩の痛みがひどく、夜に痛みで眠れない日が続き、肩関節の可動域の制限があり、イライラがひどくなってきたので知人の紹介で鍼治療を開始した。
154/82mmHgであったが、1ヶ月後16回目来院時に130/74mmHgとなりイライラも減り、肩の痛みはやや緩和されペインスケール 10⇒7 夜1回目がさめる程度となったので、担当医に相談後、薬の服用を全て中止した。その後の経過も良好で 2ヶ月後にはイライラは消失、ペインスケール10⇒4、血圧値148/88mmHgとなった。現在も薬の服用の必要もなく経過は良好である。
降圧剤等は一生飲み続けなければならない場合が多いにもかかわらず、今回のように生体制御療法により血圧値の安定化が持続し、薬の服用を中止できた事は興味ある結果でありました。
平成9年6月21日から平成10年8月30日までを募集期間とし、この期間中に最低8回以上鍼治療を行った患者を対象として多施設ランダム化臨床比較試験を行ったので報告します。
東洋医学研究所ョと東洋医学研究所ョグループ10治療院に来院した初診患者に血圧測定を行い、高血圧状態と判定した患者に対して全例に生体制御療法を行いました。今回は収縮期血圧140mmHg 以上かつ拡張期血圧90 mmHg 以上の症例に対し、封筒法により以下のように分類し、血圧値の推移を比較検討しました。
A群:生体制御療法+主訴に対する局所療法+足三里穴に対する単刺術及び円皮針
B群:生体制御療法+主訴に対する局所療法
結果は収縮期血圧値において、 A群では有意な変動は認められませんでしたがB群では有意な変動が認められました。また、両群間での差は認められませんでした。拡張期血圧値において、 A群B群共に有意な変動が認められましたが、両群間では有意な差は認められませんでした。
このことから、足三里穴に対する血圧値に及ぼす影響は認められなかったが、両群の血圧値の有意な変動は生体制御療法によるところが大きいものと思われます。
以下、高血圧症患者に対する鍼治療の一症例を紹介します。
【 症 例 】
63歳女性 主訴:右肩が痛む
10年以上前に集団検診で血圧が高いといわれ、近所の内科医院を受診し高血圧症といわれた。この時から降圧剤、尿酸合成阻害薬の服用をはじめた。 1ヶ月前より右肩の痛みがひどく、夜に痛みで眠れない日が続き、肩関節の可動域の制限があり、イライラがひどくなってきたので知人の紹介で鍼治療を開始した。
154/82mmHgであったが、1ヶ月後16回目来院時に130/74mmHgとなりイライラも減り、肩の痛みはやや緩和されペインスケール 10⇒7 夜1回目がさめる程度となったので、担当医に相談後、薬の服用を全て中止した。その後の経過も良好で 2ヶ月後にはイライラは消失、ペインスケール10⇒4、血圧値148/88mmHgとなった。現在も薬の服用の必要もなく経過は良好である。
降圧剤等は一生飲み続けなければならない場合が多いにもかかわらず、今回のように生体制御療法により血圧値の安定化が持続し、薬の服用を中止できた事は興味ある結果でありました。
2012年8月17日 金曜日
生体制御療法を使用した鍼治療の研究3・・・糖尿病に対する鍼治療
今日の糖尿病治療の目的は一次予防(糖尿病の発症を予防する)と二次予防(糖尿病の合併症を予防する)および三次予防(合併症を管理して、重篤な臓器傷害の状態または死に至らないよう予防する)であります。
糖尿病治療は食事療法や運動療法が根本治療であり、現在のところ経口血糖降下剤やインスリン療法などの薬物療法以外に治療法がありません。
東洋医学研究所における現在までの糖尿病に対する鍼治療の基礎研究や臨床研究では、鍼治療により糖尿病動物および糖尿病患者に対し副作用などの悪影響がみられたことが全く無く、糖尿病に対する鍼治療の有効性を見出すことができました。
1)基礎研究
①ストレプトゾトシン糖尿病ラットに対する鍼治療の効果
糖尿病には多くの病型があり、病態も多種多様であり、ストレプトゾトシン処理による糖尿病はインスリン依存型といわれています。我々は鍼治療の糖尿病への有効性について検討するため、ストレプトゾトシン糖尿病ラットに対し鍼治療を行い、空腹時血糖値および体重の変化について検討しました。その結果、鍼治療群は対照群に比べ空腹時血糖値において有意な低下が認められました。また鍼治療群は対照群に比べ体重が増加する傾向にありました。さらに、鍼治療群に比べ体重1g当りの空腹時血糖値において有意な低下が認められました。
2)臨床研究
糖尿病は極めて複雑な疾患で発症には遺伝や環境が重要な因子となり、インスリンの作用不足を招き、糖負荷試験に一定の異常を示す病態でありますが、単純に定義できうるものではありません。
このことから治療効果を客観的に検討することは極めて困難であります。そこで、糖尿病に対する鍼治療の有効性を客観的に検討する目的で、慈恵医大第3内科糖尿病専門外来で池田義雄らが使用していました問診表および(社)全日本鍼灸学会研究委員会不定愁訴班・慢性肝機能障害班のカルテを参考に(社)生体調整機構制御学会研究部生活習慣病班糖尿病カルテを作成しました。
このカルテを用い糖尿病に対する鍼治療の有効性を検討した症例を紹介します。
①症例1(食事療法が不充分で症状が悪化した症例)
72歳男性 主訴:糖尿病で体がだるい
5年前に随時血糖値約300mg/dlで糖尿病と診断され、食事療法の指導を受ける。その後、食事療法が充分に行われず2ヶ月前に両手のしびれ、右の瞼が開かなくなり糖尿病性の脳梗塞と診断される。1ヶ月間入院し経口血糖降下剤と食事療法をおこなったが両手のしびれ、体のだるさがとれず鍼治療を開始する。
初診時の食後2時間血糖値は204mg/dl、糖尿病自覚症状点数は12点。6ヶ月の鍼治療により食後2時間血糖値が164mg/dl、糖尿病自覚症状点数は4点になった。
このことは鍼治療は糖尿病に対し有効であり、また糖尿病の自覚症状の改善に対しても鍼治療が有効であることが示唆された症例であります。
②症例2(インスリン療法による低血糖状態患者の症例)
68歳女性 主訴:糖尿病があり両膝が痛む
5年前に空腹時血糖値400mg/dlで糖尿病と診断され、入院治療
(インスリン療法・食事療法)によって空腹時血糖値は100mg/dlとなった。退院後もインスリン注射を継続している。
しかし、体がだるく疲れやすい、手足がしびれる、目がかすむ、膝が痛いという症状があるので鍼治療を希望して来院され、鍼治療を開始する。
初診時の食後3時間血糖値は64mg/dlであったことから、インスリン療法による低血糖が誘因と考えられ、糖尿病専門医の指示にしたがってインスリン注射の投与量を減らすとともに、鍼治療を行い全身管理をした。
5ヶ月間の鍼治療によって空腹時血糖値は94mg/dlと安定し、糖尿病自覚症状点数は10点から2点へ改善した。
このことは鍼治療は血糖値を正常な状態にコントロールしていく一つの手段となりえることが示唆され、自覚症状の改善に対しても鍼治療が有効であることが示唆された症例であります。
糖尿病治療は食事療法や運動療法が根本治療であり、現在のところ経口血糖降下剤やインスリン療法などの薬物療法以外に治療法がありません。
東洋医学研究所における現在までの糖尿病に対する鍼治療の基礎研究や臨床研究では、鍼治療により糖尿病動物および糖尿病患者に対し副作用などの悪影響がみられたことが全く無く、糖尿病に対する鍼治療の有効性を見出すことができました。
1)基礎研究
①ストレプトゾトシン糖尿病ラットに対する鍼治療の効果
糖尿病には多くの病型があり、病態も多種多様であり、ストレプトゾトシン処理による糖尿病はインスリン依存型といわれています。我々は鍼治療の糖尿病への有効性について検討するため、ストレプトゾトシン糖尿病ラットに対し鍼治療を行い、空腹時血糖値および体重の変化について検討しました。その結果、鍼治療群は対照群に比べ空腹時血糖値において有意な低下が認められました。また鍼治療群は対照群に比べ体重が増加する傾向にありました。さらに、鍼治療群に比べ体重1g当りの空腹時血糖値において有意な低下が認められました。
2)臨床研究
糖尿病は極めて複雑な疾患で発症には遺伝や環境が重要な因子となり、インスリンの作用不足を招き、糖負荷試験に一定の異常を示す病態でありますが、単純に定義できうるものではありません。
このことから治療効果を客観的に検討することは極めて困難であります。そこで、糖尿病に対する鍼治療の有効性を客観的に検討する目的で、慈恵医大第3内科糖尿病専門外来で池田義雄らが使用していました問診表および(社)全日本鍼灸学会研究委員会不定愁訴班・慢性肝機能障害班のカルテを参考に(社)生体調整機構制御学会研究部生活習慣病班糖尿病カルテを作成しました。
このカルテを用い糖尿病に対する鍼治療の有効性を検討した症例を紹介します。
①症例1(食事療法が不充分で症状が悪化した症例)
72歳男性 主訴:糖尿病で体がだるい
5年前に随時血糖値約300mg/dlで糖尿病と診断され、食事療法の指導を受ける。その後、食事療法が充分に行われず2ヶ月前に両手のしびれ、右の瞼が開かなくなり糖尿病性の脳梗塞と診断される。1ヶ月間入院し経口血糖降下剤と食事療法をおこなったが両手のしびれ、体のだるさがとれず鍼治療を開始する。
初診時の食後2時間血糖値は204mg/dl、糖尿病自覚症状点数は12点。6ヶ月の鍼治療により食後2時間血糖値が164mg/dl、糖尿病自覚症状点数は4点になった。
このことは鍼治療は糖尿病に対し有効であり、また糖尿病の自覚症状の改善に対しても鍼治療が有効であることが示唆された症例であります。
②症例2(インスリン療法による低血糖状態患者の症例)
68歳女性 主訴:糖尿病があり両膝が痛む
5年前に空腹時血糖値400mg/dlで糖尿病と診断され、入院治療
(インスリン療法・食事療法)によって空腹時血糖値は100mg/dlとなった。退院後もインスリン注射を継続している。
しかし、体がだるく疲れやすい、手足がしびれる、目がかすむ、膝が痛いという症状があるので鍼治療を希望して来院され、鍼治療を開始する。
初診時の食後3時間血糖値は64mg/dlであったことから、インスリン療法による低血糖が誘因と考えられ、糖尿病専門医の指示にしたがってインスリン注射の投与量を減らすとともに、鍼治療を行い全身管理をした。
5ヶ月間の鍼治療によって空腹時血糖値は94mg/dlと安定し、糖尿病自覚症状点数は10点から2点へ改善した。
このことは鍼治療は血糖値を正常な状態にコントロールしていく一つの手段となりえることが示唆され、自覚症状の改善に対しても鍼治療が有効であることが示唆された症例であります。