臨床研究

生体制御療法(物理刺激療法)とは  臨床試験

生体制御療法としての臨床試験と考察

 黒野は、生体の高度に発達した統合的制御機構の活性化を計り、生体のバランスシステムの規定振幅度の増強と、生体の反応・修復機構、恒常性維持機構および防御機構の機能を高める目的で、生体制御療法としての全身調整基本穴を実証医学的に探り、物理療法(鍼治療法)の有効性を明らかにするために以下の研究を行った。

一、研究方法

 昭和31年1月13日から昭和43年12月30日までの13年間に東洋医学研究所ョに来院した患者中、近代医学の診断結果を得た、内科領域で同一主訴を有する5例以上の患者2083名を対象とした。
 同一主訴の5例以上としたのは、一例の偶然を取り除き、現象の正確性を明らかにし、主訴と選穴、有効性の関連を明確にする必要があるからである。したがって、同一主訴5例以上とした。 また、最初の患者に対する選穴は、経験的に得た経穴を適宜選穴した。次に患者の申告で主訴が改善された経穴を、前患者と同じ主訴を有する次の患者から使用し、随時同じパターンによりオーバーラップさせて、使用頻度を集積し、使用頻度率と有効性を調査した。


二、調査方法

 調査方法と調査の分類は表1に示す如くである。疾患別分類では、不定愁訴症候群(無徴候有訴群)が784例(37.6%)、消化器疾患538例(25.8%)、呼吸器疾患323例(15.5%)、循環器疾患275例(13.2%)、代謝疾患123例(5.9%)、泌尿器疾患40例(1.9%)となっている(表2)。
表1

表2

三、症状別分類と頻度

 次に、疾患別に分類した患者がどのような症状を訴えて来院したかについて検討を加えた。
 不定愁訴症候群(無徴候有訴群)では、頸肩部のこり:137例(17.4%)、倦怠感:73例(13.2%)、頭痛:93例(11.8%)、以下図1に示す結果であった。

図1
 
 消化器疾患では、肩こり:88例(16.4%)、胃部の不快感:76例(14.1%)、倦怠感:73例(13.6%)、食欲不振:68例(12.6%)、以下図2に示す結果であった。
図2

 呼吸器疾患では、肩こり:63例(19.5%)、頭痛:57例(17.6%)、風邪が治らない:52例(16.1%)、胸部痛:41例(12.7%)、音声の変化:38例(11.8%)、以下図3に示す結果であった。

図3

 循環器疾患では、血圧異常:68例(24.7%)、脈拍異常:41例(14.9%)、不整脈:37例(13.5%)、寝つきが悪い:36例(13.1%)、心悸亢進:29例(10.5%)、以下、図4に示す結果であった。
図4

 代謝疾患では、倦怠感:44例(35.8%)、目が疲れる:23例(18.7%)、食欲異常:23例(18.7%)、不眠:21例(17.1%)肥満:12例(9.8%)であった(図5)。

図5

 泌尿器疾患では、前立腺肥大:13例(32.5%)、乏尿あるいは頻尿:11例(27.5%)、浮腫:9例(22.5%)、不眠:7例(17.5%)であった(図6)。
図6

四、使用穴分類

 次に使用穴分類では、前述の症状に対し、如何なる経穴を使用したかについて調査検討を加えた。これらについては、150例以上使用した経穴とし、それ以下の使用経穴は今回の調査から除外した。
 その結果、肺兪・厥陰兪が共に1474例(有効率70.8%)と最も多く、次いで、天柱・風池・大杼・肩井が1386例(有効率66.5%)となっている。そして、腎兪968例、大腸兪927例、脾兪892例、中カン・期門・天枢・気海の867例で、以下図7に示すような結果であった。

図7

五、生体制御療法としての黒野式全身調整基本穴

 鍼灸治療を行う場合、選穴は重要な問題であることは言うまでもない。ここでは、東洋医学研究所ョにおける内科的領域における患者の自他覚的所見に、いかなる経穴を使用していたかの調査検討を行ったところ、生体制御療法としての一つのパターンが確認された。すなわち、使用してきた経穴の中で、明らかに常用穴および各症状に対する有効穴と思われる経穴が認められた。肺兪・厥陰兪は共に1474例、使用頻度有効率は70.8%であった。天柱・風池・大杼・肩井は1386例、使用頻度は有効率66.5%であった。

 このことは、(1)不定愁訴症候群(無徴候有訴群)患者が784例(37.6%)、(2)消化器疾患患者538例(25.8%)、(3)呼吸器疾患患者323例(15.8%)と全体の約80%を占めていることと、これらの患者の自覚症状のうち頸肩のこりが(1)では137例(17.4%)、(2)では88例(16.4%)、(3)では63例(19.5%)と、いずれも各疾患の自覚症状の一位を占めている。これは、肺兪・厥陰兪・天柱・風池・大杼・肩井等の経穴と自覚症状に何らかの関連があるのではないかと推測される。
 次いで、腎兪968例(46.5%)、大腸兪927例(44.5%)、脾兪829例(42.8%)、中カン・期門・天枢・気海が共に876例(41.6%)の使用頻度有効率になっている。

 そして、消化器疾患が538例(26%)と不定愁訴症候群が784例(38%)に次いでいること、それに(1)の中に胃部の不快感57例(7.3%)、腰痛52例(6.8%)、食欲不振43例(5.5%)、(6)の中にも、食欲異常が23例となっている。これらの症状と腎兪・大腸兪・脾兪・中カン・期門・天枢・気海等の経穴と何らかの相関性があるものと推察される。

 すなわち、40%以上の使用頻度と症状改善の有効率のあった中カン・期門・天枢・気海・天柱・風池・大杼・肩井・肺兪・厥陰兪・脾兪・腎兪・大腸兪の13穴を生体制御療法としての黒野式全身調整基本穴と定めた。
 したがって、選穴は(1)生体制御療法としての黒野式全身調整基本穴(2)特殊穴(肝機能障害疾患、糖尿病、胃・十二指腸潰瘍、喘息、その他個々の疾病に特異的に現れる経穴)(3)自他覚的症状による選穴(局所療法の研究対象として行う)(4)随証療法による選穴の4種類に分類することが考えられる。今後は、生体制御療法を基本とすることは無論であるが、各疾患や症状に対する局所療法・随証療法の研究も進めることとする。

鍼の効果についての機序の仮説

  これまでの多くの基礎研究と臨床試験の結果から、現在、我々が考えている鍼の効果についての機序仮説として、物理刺激は、おそらく身体に分布するポリモーダル受容器が物理刺激を受け、求心性神経などを介して中枢神経に伝達され、脳内サイトカインやインターフェロンなどの分泌に影響を与え、それによって自律神経系の調整と免疫力の増強が行われると考えている。つまり生体防御機構の活性化や恒常性維持機構・自然治癒機構の調節に影響を与えているのではないかという仮説を立てている(図8)。

図8


主な臨床試験

・超音波と鍼の併用による鎮痛効果について.自律神経雑誌.1973;20(3):74-78.
・排尿障害に対する封筒法による臨床比較試験-中極穴の有効性について-.全日本鍼灸学会雑誌.1999;49(3):383-391.
・高血圧に対する足三里穴刺鍼の有効性について-封筒法による臨床比較試験-.全日本鍼灸学会雑誌.2000; 50(2):185-189.
・腰痛に対する鍼治療-偽鍼を対照群に用いた多施設ランダム化比較試験-(中央管理システム).全日本鍼灸学会雑誌.2006;56(2):140-149.
・かぜ症候群の予防に対する鍼治療の有効性.全日本鍼灸学会雑誌.2009;59(4):416-420.
・その他

文献
1)黒野保三.黒野式全身調整基本穴について.全日本鍼灸学会雑誌.1985;34(3・4):252-6.
2)黒野保三.臨床鍼灸医学.エフエー出版.2001
3)黒野保三.鍼灸医学概論〈改訂増補〉.エフエー出版.1996
4)黒野保三.長生き健康「鍼」.現代書林.2008