平成17年12月1日号
東洋医学研究所®
スタッフ 中村 覚
はじめに
2005年も最後の月となり寒い毎日が続いております。今年も一年いろいろなことがありましたが、2006年に向けて頑張っていきましょう。
さて、今回コラムを担当させて頂く事になり、自分のテーマのひとつでもある「かゆみ」についてお話しさせて頂きたいと思います。特に高齢者においては冬季の乾燥によるかゆみに苦しんでいる方がたくさんいるかと思います。
かゆみとは
かゆみは「掻破衝動を起こさせる不快な感覚である」と定義されており、人間だけではなく他の動物にも起こっています。
掻破とは読んで字のごとく皮膚を掻き破ることで、その行動は寄生虫などを皮膚から剥がし落とすための正しい防御機構であり、かゆみ感覚というものは自分の身を守るために必要不可欠な感覚なのです。
実際の社会生活においても、かゆみ感覚は頻繁にそして一過性に生じ、指などで軽く擦ったり掻いたりするだけでその多くは消退することを経験していると思います。しかし、そのかゆみ感覚もときに異常な反応を起こし、自分にとって耐え難い苦痛となることがあります。昔から「痛みは我慢できるが、かゆみは我慢できない」と云われるほどであり、かゆみ感覚からの逃避が容易ではないこともあります。
かゆみを起こす疾患
かゆみは図1に示すように多くの疾患で生じるものですが、今回は特に図の一番下に示した皮膚の乾燥による乾燥肌、老人性乾皮症に注目してみたいと思います。
乾燥肌は皆さんもご存知のように、季節・体調によりどんな方でも起こりうる症状で、市販のハンドクリームなどの保湿用品によって多くはことが足りていることだと思います。
老人性乾皮症とは、老化に伴う生理的変化の一種で、新陳代謝の低下、活動量の低下により皮膚表面にある脂分(皮脂と呼びます)が不足します。その結果、皮膚の水分保持機能の低下により皮膚が乾燥し、ガサガサして粉をふいたようになり、皮膚がひび割れます。そのひび割れが刺激になったり、外部の刺激に対して敏感になりかゆみが生じます。冬季にかゆみが強くなり、市販の保湿用品では間に合わず、後に示すような対策が必要になってきます。
さて、かゆみ対策の前にすこし皮膚の構造について知って頂こうと思います。
皮膚のバリア機能と保湿機能
皮膚という器官は外部からの異物を物理的・免疫学的に侵入を防ぐ、最前線で働くすばらしい器官であり、そのような機能を「皮膚のバリア機能」といいます。異物の侵入は即かゆみにつながるので、皮膚のバリア機能を保つことが重要になってきます。
皮膚というものは表面に近い方から「表皮」「真皮」「皮下組織」の3層から成っています。表皮の中でも皮膚バリアとして重要なのは、最上部にある角層です。角層は硬い角質細胞とその隙間を埋める角質細胞間脂質から成り、その性質からレンガ(角質細胞)とセメント(角質細胞間脂質)の関係に例えられ、物理的に堅牢なバリアを形成しています。そして、重要なことは、角層は物理的バリアだけではなく、角質細胞内にある天然保湿因子によって水分を保持することにより、乾燥に対して抵抗性をあらわすことです(保湿機能)。さらにその表面を皮脂膜という油の膜で覆うことにより皮膚から水分が出て行くのも防いでいます。また、皮脂膜は弱酸性で雑菌排除に役立っています。
図2 角層のバリア機能
つまり、乾燥に対抗するには皮膚のバリア機能を高めることが大切なのです。
一般的に老人性乾皮症は角層のバリア機能は保たれているといわれていますが、皮脂が不足しているため掻破をするとバリア機能は簡単に壊れてしまいます。
かゆみのメカニズム
近年、かゆみの研究はかなり盛んに行われており、かゆみのメカニズムというものがおぼろげながら出てきていますが、まだはっきりしたことは判らないようです。しかし、次のことを知っておくとためになると思います。
かゆみを起こす物質はヒスタミンと呼ばれる化学物質で、抗ヒスタミン薬でヒスタミンを抑えることができます。しかし、かゆみの強い方には抗ヒスタミン薬が効きにくいことがあります。そこには、かゆみによる掻破により、皮膚バリアの破壊・ヒスタミンの増大、そしてまたかゆくなるという「かゆみの悪循環」が起こり、かゆみ過敏(刺激に対して簡単にかゆみが生じる)と呼ばれる状態になっていることが考えられます。
つまり、掻破を起こさないようにすることができれば、更なるかゆみ(かゆみの悪循環)を抑えることができるのです。
かゆみ対策
かゆみ対策は掻破をしないようにすることが大事ですが、最初に述べたように「かゆみは我慢できない」こともあり、結局はかゆみを生じないようにすることが一番です。その上で掻破がかゆみを強くすることを自覚することが重要になり、皮膚バリア機能の維持・向上が目的になります。
対策といっても難しいことは特になく、日常生活ですこし気をつけて頂けることですので、是非試してみてください。
1)皮膚はいつも清潔にする
スポーツなどで汗をかいたり、汚れたりした時はそのままにせず、すぐにシャワーや入浴で洗い流し、きれいにする。
2)長湯、こすりすぎに注意する
長湯は皮膚の油分を取り去ってしまい、皮膚のバリア機能が低下し刺激に対して過敏になり、炎症を起こしやすくなってしまいます。また、冬季はお風呂上りにすぐ体が乾いてしまうので、お風呂上りのすばやい保湿が大切です。
※保湿について:保湿は病院で処方される保湿剤、市販の保湿製品などがありますが、大事なのは自分の体に刺激がないかどうかにあります。いくら「良い」とすすめられても自分の体に刺激になれば「良い」どころか「悪い」になることがあるので、注意が必要です。まず、自分の腕の内側にすこし塗り、赤くなったり、かゆくなったらすぐ洗い流します。もし、次の日になっても前述のような変化がなければ使用可能ということになります。
3)皮膚への刺激や圧迫の少ない衣服を着用する
衣服で圧迫された部位にかゆみが出現することがあります。特に冬季は毛糸の服など刺激性の衣服を着ることになると思いますので、衣服を着用したときにかゆみが出た場合には、すぐに衣服を変える必要があります。
4)高温、多湿、乾燥に注意する
高温・多湿の環境では、皮膚血管が拡張し、発汗することにより、かゆみが増強することがあります。また、冬季は空気の乾燥により皮膚が乾燥するので、皮膚の保護に十分に注意し、スキンケアを心がけます。暖房器具を使用するときには必ず加湿器と併用することが大切です。
5)精神的ストレス対策をする
精神的ストレスが原因になって、かゆみが出現することがあります。
6)かゆみを起こす食べ物や薬剤に注意する
かゆみを起こすヒスタミンを多く含んだ食べ物、例えばイカ、タコ、カニ、トマト、イチゴなどや、血管を拡張させるアルコールなどはかゆみを強くしたり、新たにかゆみの原因となったりすることがあります。また、薬剤を服用して「かゆみ」が出現した場合には、必ず主治医に相談し、対策を行って下さい。
おわりに
冬季の乾燥によるかゆみは、きちんと対策をとれば防ぐことは可能であると思います。かゆみ感覚は暖めると強くなり、冷やすと弱くなる性質を持っていることから、寒い季節はかゆみが少なくなることも考えられますが、実際には乾燥によりかゆみは増加します。それだけ新陳代謝の低下による皮脂の減少・乾燥による皮膚水分量の低下が多いことをあらわしていると思います。
臨床の現場では鍼治療を続けると皮膚の潤いが増し、色・艶がよくなることを多く経験します。基礎研究においても
鍼灸刺激(ポリモーダル受容器の興奮)が線維芽細胞を増殖
させることがわかっています。その線維芽細胞は皮膚の潤いの元といわれるコラーゲンを作り出すことから、鍼治療により皮膚の潤いを保つことができると思われます。
特に冬季のかゆみ対策として、全身の血流改善、新陳代謝増加を目的とした鍼治療をお勧めします。