平成17年6月1日号
東洋医学研究所®グループ
明生鍼灸院 院長 鈴木 裕明
前回(
H15年9月5日号
)にて、鍼灸治療が有効な不妊症の種類は「機能性不妊症」であり、その原因として、生活環境やストレスによる情動障害が考えられているとお話しました。今回はこの「機能性不妊症」を皆さんの生活の中で見つめなおしたいと思います。
鍼灸院に来院される挙児目的の方の多くは、不妊歴・治療歴がともに長く、いわゆる「難治性不妊症(結婚5年、不妊専門医療機関で2年治療しても妊娠に恵まれないもの)」といわれる状態であるのが現状です。
病院での治療においても、一般不妊治療(タイミング・人工授精)を何年も行うも妊娠に恵まれないため、現在における最先端の高度生殖医療の対象となり、体外受精等を幾度となく繰り返すが妊娠に恵まれず、その結果、治療の目的・原因を見失っている方を多く見受けられます。
このような方に対して医療面接を行うと、身体的・精神的・社会的・経済的なストレスが大変多い事に気づくことがあります。種々のストレスが複雑に積み重なった結果、自律神経の乱れを生じ、機能性不妊の原因となり得ます。また、自律神経の乱れがホルモンのアンバランスを引き起こし、生殖機能の働きが円滑に行われず、妊孕力(妊娠する力)の低下を招くことが考えられます。
挙児希望の方の中には、病院での検査の結果、原因不明の不妊(機能性不妊)と診断を受けた為に、生殖器以外に不妊原因があることに気がつかず治療の目標を見失い、途方にくれている方が多くいるのも事実なのです。
この点において、東洋医学における不妊の原因は単に子宮・卵巣といった生殖器単独の異常だけと捕らえず、むしろ生殖器以外の器官の機能異常が原因となり不妊症に至ると考え、そこにアプローチします。
東洋医学においては、全人的に不妊症そのものを診ていくことが基本になり、鍼灸治療に妊娠の可能性を見出し来院する方に、生殖器に限定した治療ではなく、東洋医学からみた身体の原因がどこにあるのか、改善するためには何をすべきなのかを明確にする必要があります。
東洋医学における不妊症
1)
不妊症は生活習慣病の一つ
近年、いわゆる生活習慣病の方が増えていますが、その生活習慣病の中には不妊症も含まれていると思います。
生活習慣病というと、糖尿病や高血圧、脳血管障害などが思い出されますが、これらの原因にはストレスや過食、そして最大要因の運動不足にあり、皮肉にもこれら全てのことが不妊症の原因にもあてはまるのです。
現代社会の生活様式は、あらゆる面で便利になってきました。その結果、人間は動かない動物となってしまったのです。動物は動かなければ生きることができず、また、動かなければ体は正常に機能しなくなるようにできているのです。人間も動物である以上、動かなければなりません。しかし、社会環境が動かなくても生活できるように変化したため、慢性的な運動不足から全身の機能低下が起こってしまうのです。
2)
4つの不妊症原因
鍼灸院に来院される挙児希望の方は、大きく4種類の原因に分類することが出来ます。
一つ目は
整形外科的不妊
で、骨盤のゆがみ、腰痛などが挙げられます。
実際、不定愁訴として腰痛を訴える方が多いのが現状です。腰痛は様々な原因がありますが、主要原因として運動不足から筋肉が衰え、骨格を支えられずに骨盤がゆがんだり、骨盤支持筋の慢性的な疲労による血行不良(こり)が骨盤内の血流にも影響を与え、血流不全となります。さらに神経伝達がうまくいかず、子宮や卵巣が機能障害を起こす原因となり、不妊になりやすいと考えられています。
二つ目は
内科的不妊
です。内科的な症状としては、食欲減退や消化不良、冷えなどが挙げられます。では何故内科的は症状が不妊につながるのかといいますと、胃腸が弱ることにより食べ物がうまく消化できず、栄養を吸収することができなくなり、身体も冷えます。そのため、体が冷えていれば血液循環が悪くなり、全身に血液が行き渡らず、臓器に栄養を運ぶこともできなくなります。
その結果、身体の機能が低下してくる為、生殖器の働きを弱め、自らの身体を守る為に妊娠しないようにする、いわゆる「不妊」になると考えられます。
特に「不妊症」という大きな症状を抱えている為か、これら内科的な症状があっても当たり前のように感じられている方が多い傾向があるように思います。
三つ目は、
心療内科的不妊
です。不妊症患者にとって、まず自分が不妊症であるというストレスから始まり、そこに置かれることによる周りの社会的環境ストレス、通院、保険適応でない治療費を払わなければならない経済的ストレス、長期に渡る治療による精神的及び身体的ストレスをうけています。ただでさえストレス社会といわれる現代において、それ以上に不妊特有のストレスを抱えている為、自律神経の乱れが生じる方が多いのです。この自律神経の乱れから血液の流れが悪くなり、ホルモン分泌のアンバランスをきたす為、様々な身体的症状が起こり、生殖機能も十分に働くことができなくなることが、不妊の原因になると考えられます。
最後の四つ目の原因は
婦人科的不妊
であり、これは
前回
お話しした婦人科においての検査で明らかになる器質的原因によるものです。
3)
東洋医学(鍼灸治療)の効果
鍼灸治療はエネルギー(気・血)の循環を促し、本来の生命力を回復する効果があります。
また、血液の流れを促進させ、
血を排出させる働きもあります。特に女性は骨盤内に
血がたまりやすく、冷え症や月経障害などの原因になります。
血を改善させることで体が温まり、月経もスムーズになることが期待できます。これも、妊娠しやすい体質づくりに効果が期待できるのです。
また、自律神経の乱れにより起こったと考えられる筋緊張を取り除くことにより骨盤のゆがみを正すことにも有効です。骨盤内の血流不足も改善されるため、子宮や卵巣の機能も高まります。
いずれも全身のコンディションを整え、全身の機能をバランスよく働くようにするための治療です。エネルギーが高まれば生殖に関するホルモン分泌も活発になり、妊娠しやすい身体へと改善することができるのです。
おわりに
挙児希望者は種々のストレスを抱えながら妊娠という目標に向かってがんばっています。しかし、出口が分からない治療へのいら立ち、目標が達成できるのか明確でないことへの不安により、今の自分の置かれている現状を見失い、目標さえも定かでなくなる事が多いように見受けられます。
私たちは、西洋医学において治療効果が上がらず、鍼灸治療に妊娠の可能性を期待して来院される方に、改めて、東洋医学的に心身の状態を説明する事により、明確な目標を提示(インフォームドコンセント)することが出来ます。
明生鍼灸院では(社)全日本鍼灸学会において、難治性不妊症の患者に高度生殖医療と鍼灸治療を併用した結果をはじめ、いくつかの不妊症に関する報告をしてきました。また、日常生活の改善が不妊治療にもつながります。
以上のことから、不妊治療の選択肢の一つに鍼灸治療をお勧めします。