平成20年5月1日号
流産 abortion
東洋医学研究所®グループ
明生鍼灸院 院長  鈴木 裕明

 私たちは過去のコラム(平成15年9月号平成17年6月号コラム参照)にて不妊治療についてお話して来ました。不妊治療の結果、待望の妊娠に至っても出産までの10ヶ月間は長く、様々なトラブルも少なくありません。今回のコラムはそのトラブルの中でも特に多くの方々が経験する流産についてお話いたします。

 流産とは、妊娠22週未満になんらかの異常で胎児が亡くなってしまうこと(22週以降は死産といいます。)で、妊娠12週までを早期流産、12週以降22週未満を後期流産と定義します。※1,2 全妊娠の10〜15%に起こるとされていますが、妊娠のごく初期に気づかないまま流産しているケースもあるので、約20%近い確率と考えられます。その80%が早期流産とされており、早期流産の約60%は胎児側の染色体の異常が原因です。このような場合はもちろん母体側の原因ではありません。

表1 流産の原因
原  因 詳  細
胎児側因子 染色体異常  
胎児付属物の異常 臍帯、胎盤などの異常
母体側因子 子宮の器質的異常 子宮奇形、子宮筋腫、子宮頸管無力症など
感染症 梅毒、クラミジア、風疹など
内分泌異常 甲状腺機能異常、副腎機能異常、糖尿病など
全身状態 高熱、著しい疲労、外傷など
免疫異常 抗リン脂質抗体症候群、自己免疫疾患など
その他 心・腎疾患、放射線被曝など
原因不明    

流産にはその状態によって様々な言い方があります。詳しくは表2をご覧下さい。

表2 流産の分類
分 類 詳   細
切迫流産 胎児が排出されておらず、子宮口も未開大で、子宮内腔より出血を認める場合をいい、下腹部痛の有無には関係しない。流産へ移行する可能性をもった状態であるが治癒し正常な妊娠に復帰できる可能性がある状態を指す。
進行流産 切迫流産より進んだ状態で、胎児はいまだ子宮外に排出されていないが子宮口は開大し子宮からの出血も増加し、やがては下腹部痛の増強とともに胎児が子宮外に排出されるにいたる。妊娠継続が不可能な状態を指す。
完全流産 流産の際に胎児および付属物が完全に子宮外に排出されてしまった状態をいう。
不全流産 流産の際に胎児および付属物が一部子宮内に残存し、子宮口は開大しており子宮は十分収縮せず出血が続く。子宮内除去術が必要となる。
稽留流産 胎児が死亡したにも関わらず、流産の徴候なく子宮内に停滞している状態をいう。

 流産を経験すると「あの時、無理をしたせいで・・・」と自分を責めてしまいがちですが、胎児の染色体異常による流産は自然淘汰を意味し、言い換えれば非常に短い寿命であったといえます。ご理解いただきたいのは、このような流産は防ぎようがないもので、お腹の中の赤ちゃんも天寿をまっとうしたのだということです。流産には大きなストレスが伴います。このことは皆さんも容易に想像できることと思います。しかし、流産をしてしまったお母さんの本当の辛さはご本人にしか分からないのかもしれません。時間が経てば忘れられるというものでもありません。1年、2年と経つ度に流産を思い出し、ストレスが増す事もあるのです。そのストレスを減らすためには、流産を忘れようとするのではなく、しっかりと悲しみ、そして受け止める必要があります。短い時間ではありますが赤ちゃんも精一杯生きたのだと心から供養できた時にはじめて前に進む事ができるのではないでしょうか。

不妊治療と流産について
 不妊治療の中でも体外受精などの高度生殖医療(ART)を行った場合、通常よりも流産率が高いことはよく知られています。しかしこのことはART自体の危険性を示すものではありません。なぜなら先に述べたように自然妊娠の場合では、妊娠のごく初期にわからずに流産している場合もあることから流産率が高くなることが予想されます。また、自然妊娠とARTによる妊娠では年齢層が違います。海外の報告ですが、34歳未満では流産率は約14%でありましたが、35歳から流産率は上昇し始め、40歳になると約30%、43歳では約45%、44歳では約60%にもなるといわれています。このような加齢に伴う流産率の上昇の原因は、卵の老化がかかわっているものと考えられています。若い女性から卵の提供を受けた場合には高齢の女性でも流産の頻度は上昇しないという結果が報告されています。※3、4 以上のことから流産には妊娠方法よりも母体年齢が大きく関わっていることが分かります。
 このような流産に対しては治療法がありませんが、私たちは母体環境を少しでも改善することで防ぐことができる流産もあると考えております。私たちは2008年5月31日に京都で行われる(社)全日本鍼灸学会学術大会において鍼灸治療と流産率の関係を報告する予定でいます。詳しくは書くことができませんが、鍼灸治療を継続する事で流産率が減少する傾向がみられております。鍼灸治療には血流を改善する効果があり、自律神経のアンバランスを整える作用もあります。また免疫系を介して妊娠中の母体に好影響を与えているものと考えております。

 さて、このように1回の流産については赤ちゃん側に原因があることが多いのですが、流産や死産を繰り返すとなると「不育症」が疑われます。今回のコラムでは詳しい説明は省略いたしますが、鍼灸治療が不育症に対して効果的であることは過去に(社)全日本鍼灸学会にて報告しておりますので、そちらもあわせてご参考下さい。※5 

明生鍼灸院ホームページ http://www2.odn.ne.jp/meisei-acp

 鍼灸治療は副作用のない安全な治療です。普段の体調管理はもちろんのこと、流産後のケアや妊娠・出産に関する様々なストレスの軽減に役に立ちますので、鍼灸治療を皆様の生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。


参考・引用文献、資料
※1 不妊カウンセリングマニュアル,2001,久保春海,株式会社メジカルビュー社,p222−3
※2 標準産婦人科学第2版,2000,望月眞人,医学書院,p317−4
※3 2002 Assisted Reproductive Technology Report : Section 2 , ART Cycles Using Fresh, Nondonor Eggs or Embryos. Miscarriage Rates Among Women Who Had ART Cycles Using Fresh Nondonor Eggs or Embryos, by Age of Woman, 2002(CDC’s 2002 ART National Summary in USA)
※4 体外受精ガイダンス第2版,2006,荒木重雄,医学書院,p15−1
※5 中日新聞:鍼灸治療で流産を抑止,2003年6月24日