平成21年9月1日号
東洋医学研究所®グループ
伸誠鍼灸院 院長 加納 俊弘
皆さんは
動脈硬化
というと何を想像されるでしょう。恐らく
アテローム動脈硬化
に代表されるように血管の内腔が狭くなり
血栓
や
梗塞
を起こしたり、血管の破錠をきたすといった病態を思い浮かべると思いますが、血管の老化はその
コンプライアンス
(伸縮性)が失われること(arterial stiffnessという概念)も
動脈硬化
に含まれ、特にその影響を受ける大動脈の
コンプライアンスの低下
は全身の
血行動態
(血流速度や血流量)に大きく影響を及ぼし、全身の
動脈硬化
を進行させます。
橈骨AI(Augmentation Index)とは?
今回ご紹介する
橈骨AI
とは手首の脈から
圧センサー
を用いて
脈波
を抽出し、同時に
上腕血圧
を測定し
中心血圧
(
大動脈起始部の血圧
)を推察するもので、一般的な血圧測定では測れない指標でもあります。
東洋医学には重要な診察法の一つとして
脈診
というものがあり、同じく手首の脈を診るものですが、その表し方は複雑で客観性を欠くものでした。
東洋医学研究所
®の所長である
黒野保三
先生は、約30年前にこの
脈診
を客観的に捉える試みとして
橈骨脈波
を抽出し定量的に表すことに成功しており、
原著論文
として業績を残しています。
この業績を残すには
脈診
を正確に捉える
技術
と
知識
、その脈状からその頃のセンサーで定量的に捉えうるであろう脈の成分を選択し抽出する
感性
と
能力
を身に付けていなければならず、またそれを行うための幅広い
技術的協力者
がいなければ到底その成果は望めなかったと思います。
現在の
圧センサー
は30年前とは比較にならないほど感度、正確さとも精巧にできていますが、黒野先生の抽出した脈波は現在のものと遜色なく、いかに正確であったか、先生の論文からデータを一部抜粋(図1)させていただきました。
図1
さてこれらの
脈波
は何が違うでしょう。
年齢
により
脈波の形
が違うのがお分かりかと思います。
24才被検者の脈波
は明瞭な2つの山がありますが、年齢が上がっていくほど
2つ目の山が高く
なり1つ目の山にくっついています。
図2
図2
は
橈骨脈波
と
大動脈起始部の脈波
の相関を表したものです。年齢に伴い血管が硬くなっていくと
P2
の部分が増大していくのがお分かりかと思います。この増大をAugmentationといい、増大した比率を
AI
(Augmentation Index)といいます。
簡略に説明いたしますと、
上腕の最高血圧の値
は
P1
の部分であり、
中心血圧の最高血圧の値
は
P2
であるため、血圧測定では中心血圧の値を知ることはできません。
最高血圧
が120mmHgでも正常な人の
中心血圧
は100mmHg以下の人もあれば、
動脈硬化
の進んだ人は140mmHg以上という人もありうるわけです。
そこで
AI
を用いて
中心血圧
を推察することで動脈硬化の進行の程度やそのリスク、また薬剤の効果を診る方法とされるようになりました。
中心血圧
はどうして高くなるのでしょう。大動脈は心臓から駆出された血液をその
コンプライアンス
によって受け止め末梢血管に血液を圧力と量を保って送り届ける役目をしています、この作用を
ウィンドケッセル効果
といいます。この
コンプライアンス
は種々の
動脈硬化リスク
(
糖尿病
・
高血圧
・
脂質異常症
・
喫煙
など)や
加齢
によって動脈を伸縮させる成分が変性しコンプライアンスは
失われて
いきます。その結果、血流速度が上がり心臓が血液を駆出している最中に
反射波
として戻ってきてしまいます。その結果、心臓は一生懸命に血液を駆出することで
中心血圧
を押し上げることとなります。
中心血圧
が高いと
心肥大
をきたし
動脈硬化
を加速する重大な
リスクファクター
となります。特に心臓を養っている
冠状動脈
の血流は心臓拡張期に多く流れていますが、
コンプライアンス
の低下した大動脈は心臓拡張期の血流量が極端に減ってしまうため
冠危険因子
の一つとしても注目されています。
中心血圧
を上昇させる大動脈のコンプライアンスの低下を防ぐためには
生活習慣病
の
予防
と
治療
、何より
運動
(有酸素運動)が中心血圧の降圧効果が高いことが証明されています。
また、高血圧症に対する鍼治療(黒野式全身調整基本穴)の効果が研究(
研究室参照
)によって認められています。是非、生活習慣病の予防と治療を目的で鍼治療を受診されることをお勧めします。
・知って防ごう!動脈硬化
Part1
・
Part2
はこちらから。
参考文献
1)黒野保三:脈波の分析と東洋医学との対応,全日本鍼灸学会雑誌31(4);359-363.(1982)
2)黒野保三:脈波の分析と東洋医学との対応(その2),全日本鍼灸学会雑誌33(3);266-271.(1984)
3)脈をどう診るか,株式会社メジカルビュー社,2003
4)動脈硬化予防,Vol.4,,No.1,2005,株式会社メジカルビュー社